現役ドラフトはなぜ成功例が多いのか 評論家が分析したポイント「指導者の固定観念」「ラストチャンスのメンタル」
プロ野球は9日、第3回現役ドラフトが開催される。過去2年を見ても阪神・大竹、中日・細川、日本ハム・水谷など、通常のトレードと比較しても成功例が多い。それはなぜか-。阪神、広島、オリックスで指導者を歴任し、現役時代にトレードの経験もある岡義朗氏は2つのポイントを挙げた。
まず岡氏が指摘したのは現役ドラフトで出される球団側の評価だ。「入団して4、5年たつとある程度、評価は固まってくる。例えば足が速い選手は代走から、守備がいい選手は守備固めからといった風にね。この選手は変化球は打てるけど、直球は打てないとか。その間に弱点を克服できないと、レギュラーにはなかなかなりにくい」と語り、「チームの中で評価が決まってくると、首脳陣もそういう目で選手を起用する。もちろん勝つために必要なことだけど、例えば代走・守備固めの選手は打席に立つチャンスが限られるとかね。そういう固定観念という部分が選手の飛躍の妨げになることがある」と言う。
「例えば阪神の大竹は投手層の厚いソフトバンクで埋もれた存在だった。でもチームが変わって、リーグが変わって、球速ではなくボールを低めに丁寧に集める持ち味を生かせたことで結果を残せた。制球力を重視するチームのスタイルにも合致したよね」と岡氏。「どうしても指導者やチームの方針と選手の思いが合う合わないは経験上、ある。それが固定観念ならなおさら。それが新しいチームに行くことによって、いったんフラットになる。真っさらな目で見てもらえる。代走守備だけだと思ったら、思った以上に打撃がいいとか、代打要員だと思ったら守備がいいとか。新たな可能性を見いだしてくれる」と分析する。
現役ドラフトで移籍することにより、旧チームの固定観念を振り払えることで飛躍の可能性が出てくる。そして「故障がない限りは必ずチャンスをもらえる状況になるよね。トレードと違うところはそこ。あらかじめシーズン中から調査して、獲得するというイメージではないから。故障さえなければいったん新戦力として真っさらな状態で評価されていくわけだから」と選手側のメリットを口にする。
一方で現役ドラフトに出されるということは「旧チームからすれば戦力外に近い。つまり崖っぷちの選手ということ」。旧チームからすれば出しても問題がない選手という見方になり、言葉を変えれば必要とされない選手という立ち位置だ。それが岡氏が指摘する第2のポイント「ラストチャンスのメンタル」につながる。
「移籍した選手はここでやらないと戦力外になるという危機感がある。そして新しいところで認めてもらうには結果を出すしかない。そういう崖っぷちのメンタルというのは、選手が成長して行く上ですごく重要。自分もトレードで移籍した時に、とにかく半年間ガムシャラに頑張って、新たなチームで周囲に認めてもらえた。要するに移籍することで選手の闘争心に火が付く。そして新たな可能性が生まれる」。古巣の固定観念が消え、かつ選手も奮起する。2つの要素が合致すれば、潜在能力が開花する確率は高くなるのは必然だ。
「FAは自分で出て行くけど、現役ドラフトは形として、必要とされて招かれるわけだから。少なくとも移籍することでチャンスは増えるし、選手のモチベーションも変わる。人間だから監督と合わない、コーチと合わないは絶対にある。そういう意味では現役ドラフトは非常に面白い制度」と結んだ岡氏。マイナス要素ではなく、プラス要素が目立つ過去2回の現役ドラフト。成功例が多いからこそ、3回目にも注目が集まっている。(デイリースポーツ・重松健三)