JOC前会長山下泰裕氏「ありのままの姿さらけ出して」大けがから2年…車いす姿生活「ヒートショックじゃなかったかな」母校東海大で授業

 五輪柔道金メダリストで、2年前に頸髄(けいずい)損傷の大けがを負って長期療養していた日本オリンピック委員会(JOC)前会長の山下泰裕氏(68)が18日、体育学部武道学科特任教授を務める母校の東海大での授業・柔道論後に、湘南キャンパス内で報道陣に向けて会見を行った。

 社会復帰した11月27日から毎週木曜日、全4回を担当した。現在は首から下がほとんど動かせないため、胸あたりをバンドで固定した車いす生活。授業では、人の手を借りて水分補給し、時には鼻水を拭いてもらいながら講義に臨んできたという。五輪金メダルの輝かしい功績だけでなく、スポーツ界のトップとして業界を引っ張ってきただけに、事故後の姿を公の場にさらす怖さや勇気は計り知れない。それでも山下氏は、きっぱりと言った。

 「左手が少しだけ動く。左手が動かなかったらどうなるんですか?と担当の医者に聞いたら『完全にまひしている状況で、横隔膜が動かないから呼吸ができなくなる。人工呼吸器を付けるか、あるいは命がなくなる』と言われた。(私は)その一歩手前で生き残った。昔なら恥ずかしい…そういう姿を人前にさらけ出したくないという考えはあったかもしれないけど、私の中ではそれ以上に生かされているんだ、という気持ちがかなり強くある。生かされている意味とは何か、果たすべきことは何か、できることは何か。幸いなことに自分で自分は見えない。かすれ声で息は絶え絶えで、水分補給をしたり鼻水を流しながらでも、後悔はない。自分のありのままの姿を学生たちにさらけ出しながら、障がい者のことを身近に感じてもらえたらいいなと、そう思っている」

 会見には、スタッフに車いすを押されて入室した。「肺が3分の1に縮小している」と話しながら息を切らす場面はあったが、顔つきや発する言葉の力強さは以前と変わらない。報道陣からの質問にも約1時間しっかりと受け答えした。

 冒頭では事故当時の状況を自ら説明した。家族で箱根の日帰り温泉に出かけた2023年10月29日、露天風呂から立ち上がった瞬間に意識を失った。「ヒートショックじゃなかったかなと思う」。2メートル近い崖下に転落。他の温泉利用客に「大丈夫ですか?」と声をかけられて意識を取り戻すと、すでに頭と足の位置が上下反対で、全身のまひを感じていた。

 頸髄(けいずい)損傷の大けが。腰骨を頸椎に移植する手術など、4つの病院で治療とリハビリを行い、今年9月に退院した。家族からは「こうやって命があったということは生かされている。その意味を考えながら頑張らなきゃいけないね」と励まされ、社会復帰を目指した。一方でコロナ禍での東京五輪開催や延期と、重責あるJOC会長の任期中に起こった事故だっただけに「これでプレッシャーから解放される」と安堵(あんど)の気持ちもあったという。

 現在は自宅から近い施設で生活している。大けがを負って心境の変化もあったと明かし、「活動を通しながら障がい者の方に対して少しでも理解が深まっていけばいいのかな。もっともっとさまざまな障がいをお持ちの方、子どもからお年寄りまでスポーツに親しんで、一日でも早く多くの人がスポーツを通して豊かな人生を歩めるように。やるだけではなく、見る、支えるも。五輪や(愛知・名古屋)アジア大会で選手の活躍は期待しますけど、そこでメダル何個を取ればいいというわけではなく、もっともっと上を見たスポーツ界になってほしい」と願いを込めた。

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