【100歳プロ内田棟 1】現役の矜持「若い人にはまだまだ負けたくない」
全国から多くの観光客が訪れる長野県軽井沢。自然に囲まれた美しい町に、“日本一のプロゴルファー”が住んでいる。内田棟(うちだ・むなぎ)。御年100歳。日本最高齢プロゴルファーだ。
10月9日に100歳の誕生日を迎えた。長野県御代田町の自宅には県知事や倉本昌弘・日本プロゴルフ協会会長ら多くの人から花束や祝電が届けられた。
「自分では100歳になったなんて考えたこともない。だから、周りから『100歳おめでとう』って言われて、そんなに自分は年を取ったのかなって不思議な感じがするんだよ」。そう言って内田プロは笑った。
今年は腰に痛みがあるためコースでのラウンドを控えているが、自宅では毎日、パター練習を欠かさない。リビングに常にパターマットを敷いていて、暇があると「コロン、コロン」と心地よい音を響かせながらカップにボールを沈める。天気が良ければ、庭に張ったネットに向かってアプローチ練習にも励む。「プロである以上、常にゴルフの調子を整えておくのは当たり前のことです」
内田プロとゴルフとの出合いは10歳の時、旧軽井沢GCで小遣い稼ぎのためキャディーのアルバイトを始めたのがきっかけだった。20歳から約10年間は軍隊を経験。終戦後は新軽井沢GCに勤務し、キャディーマスター室で働く傍ら、白洲次郎や田中角栄、皇族の常陸宮殿下らにゴルフを教えた。「これなら何とかプロでも飯を食えるかな」と55歳の時にプロテストを受験して一発合格。73年の日本プロシニアでは3位の好成績を収めた。
2度に及ぶがんも乗り越え、95歳だった2012年には「日本プロゴールドシニア選手権」の関東予選で初日96、2日目102というスコアで回り、周囲を驚かせた。6227ヤードのパー72。ラフが深く、グリーンも速いプロ仕様のセッティングでのスコアだけに見事というほかない。
「腰の方が良くなれば、またコースを回りたい。家でじっとしてるのはつまらない。若い人にはまだまだ負けたくないからね」。100歳になっても現役プロとしての矜持(きょうじ)を持ち続けている内田プロ。次回からはゴルフ、食事、トレーニングなどを通じて100歳プロの秘密に迫る。
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内田 棟(うちだ・むなぎ)1916年(大正5年)10月9日、長野県軽井沢出身。71年、55歳の時にプロテストに合格。トーナメントプロとして活躍する一方で、コース設計やレッスン活動などもこなす。息子は「ケサゴン」の愛称で親しまれ、シニアツアーの初代賞金王にもなった内田袈裟彦氏(09年死去)。現在は同県御代田町で妻・政子さん、長女・とも子さんと3人暮らし。