中村米吉-中村隼人 対談(下)
大阪松竹座の「七月大歌舞伎」(~27日)に出演中の中村米吉(22)と中村隼人(21)。夜の部では「絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)」で、昼の部の「ぢいさんばあさん」に引き続き夫婦役を演じてる。
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米吉「夜の部でも夫婦。ほのぼのとした昼の部とは一転、夜の部は無残にも(片岡)仁左衛門のおじさんに殺されてしまいます」
隼人「仁左衛門のおじさんには“もっとあわれに、もっとグロテスクに”と言われています。(仁左衛門が得意とする)「女殺油地獄」と同じようなシーンもあって、目が怖い。いつもの仁左衛門のおじさんの目じゃない。本当に殺されそうな気がします」
-今後やってみたい役は
米「いろいろあります。若いお役では『梶原平三誉石切』の梢、『俊寛』の千鳥、『仮名手本忠臣蔵』のお軽、『すし屋』お里など。年かさのお役では『引窓』のお早、『吃又』のおとく、『熊谷陣屋』の藤の方や相模、『絵本太閤記』の操…あげたらきりがありません。その中でも『神霊矢口渡』のお舟は一番やってみたいお役です。そして『沼津』のお米は、父の平作と親子でやらせていただければと思います」
隼「『伊勢音頭』の貢は、仁左衛門のおじさんがやってらっしゃるのをよく見ていて、やってみたいお役です。うちはもともと女方の家系なんで、米吉が先祖の役をやることはあるかもしれないけど、僕は立役なんでなかなか家に縁の役というのがないです。なのでぜひやってみたいのが『一條大蔵譚』の大蔵卿です。(高祖父の)三世時蔵は女方だけど、このお役をやってるんです。三世時蔵は初世吉右衛門、十七世勘三郎のおじさんと3人兄弟なんですが、全員がやってるのは大蔵卿くらいなんです。だから僕もぜひ!立役で数少ない縁の演目になりますから。また時代物だと『菊畑』の虎蔵、『仮名手本忠臣蔵』の勘平とか、あと『女殺油地獄』なども演じる機会をいただけたら」
-ずばり歌舞伎とは
隼「歌舞伎の家に生まれ、初舞台を踏んでから舞台に出なかった年はないです。歌舞伎のある生活があたり前なんです。改めて問われると困るほど、身体にしみついています。でも本物になるためには努力が必要。いまは歌舞伎以外にもいろいろなお仕事をさせていただいていますが、すべては歌舞伎のため。他のお仕事で僕を見ていただいて、それをきっかけに劇場にも足を運んでいただけたらと思っています」
米「父が昔『歌舞伎役者がやれば、それが歌舞伎なんだ』と言っていた事がありました。例えば昼の部の『ぢいさんばあさん』。あの作品が新劇にならないのは、歌舞伎役者がやってるからなんです。僕の肩書は“歌舞伎役者”。でも本当の意味での歌舞伎役者になるにはまだまだお勉強しなければいけないことがいっぱいです」
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中村米吉(なかむら・よねきち) 1993年3月8日生まれ。中村歌六の長男。屋号は播磨屋。2000年7月歌舞伎座「宇和島騒動」の武右衛門倅武之助で五代目中村米吉を襲名し初舞台。たれ目がチャームポイントの新進気鋭の女方。坂東玉三郎に引き立てられ「日本振袖始」の稲田姫に起用された。
中村隼人(なかむら・はやと) 1993年11月30日生まれ。中村錦之助の長男。屋号は萬屋。2002年2月歌舞伎座「寺子屋」の松王丸一子小太郎で初代中村隼人を名のり初舞台。立役が主。大河ドラマ「龍馬伝」徳川家茂、「八重の桜」松平定敬で出演するなど、歌舞伎以外の活躍も多い