１８３センチと歌舞伎界きっての長身で、堂々とした体躯で迫力ある舞台で、芝居を引き締めている坂東彌十郎。時代・世話物を問わずさまざまな役柄を的確に演じ分け、円熟味を増してきた。「平成中村座」にも参加し、「夏祭浪花鑑」の釣船の三婦は評判を呼んだ。今年は大阪での舞台が多く、１０月の大阪松竹座「阿弖流為」に続き、大阪平成中村座（１０月２５日～１１月２６日）に出演する。同年代の故中村勘三郎さん、故坂東三津五郎さんを兄ともしたい、最近はその“兄”の息子たちと、舞台に立つことも多い。温和な人柄で、来年５月には夢であったヨーロッパ公演を実現させる。

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　今年は本当に大阪でのお仕事が多く１、２月も大阪松竹座でした。そして１０月の大阪松竹座「阿弖流為」に続き、大阪平成中村座に出演させていただきます。「阿弖流為」はハードな舞台で、中日を過ぎたあたりに肉離れを起こしてしまいました。東京公演でも１度やっていたので、気を付けていたのですが…。３０代でスーパー歌舞伎に出演していたころのつもりで動き回っていると、やはり年です（笑い）。でもそれくらい体当たりで、勤めさせていただきました。倅の新悟も大きな役を頂き、いろいろ自分で考えて７月の初演のときといまでは、まったく違っている。ありがたいなと思います。

　１１月は大阪平成中村座です。夜の部の「盲目物語」に初めて出させていただいたのが、十七代目の勘三郎のおじさまのとき。（十八代目）勘三郎さんのときも出演させていただき、そして今回は勘九郎さんと、３代に渡ってご一緒させていただきます。感慨深いものがありますね。演目としても、「大坂夏の陣４００年記念」にふさわしいものですし、ぜひご覧いただきたいですね。

　親子２代に渡って…というと、２年ほど前に三津五郎さんと「棒しばり」をさせていただいたとき、「これはお前が覚えておいてくれよ」とおっしゃたんですよ。いつもはそんなことは絶対に口にされない方なのに。体調のこととかあったのでしょうね。８月の歌舞伎座で子息の巳之助君と踊ったのですが、胸に来るものがありましたね。

　三津五郎さんとは４カ月違い、勘三郎さんとは１つ違いますがほぼ同年代。実は、僕は背が高すぎて子役ができなくて、初舞台が１７歳。そんな自分が初めて大向こうをかけてもらったのが、学校の文化祭で日舞を披露したときでした。そしてその大向うを掛けて下さったのがなんと勘三郎さんと三津五郎さん！三津五郎さんは別の学校にも関わらず、わざわざ観に来てくださって…うれしかったですねえ。いまでも忘れられない大切な思い出の一つです。

　若いころは猿翁さんの元でスーパー歌舞伎にも出させていただき、本当にいろいろ教わりました。海外公演にも連れて行っていただき、歌舞伎はもちろんオペラの演出のお手伝いもさせていただいた。そのころからずっと自分でも歌舞伎を海外でもやりたかった。

　来年５月、その夢をかなえます。昨年、倅や弟子たちと東京・日本橋公会堂で「やごの会」第１回公演をさせていただいたのですが、そのメンバーでヨーロッパ公演をやります。持っていく演目は「やごの会」でも上演した「関の扉」（せきのと）。海外で見ていただくには難しいかな、とも思いましたが、昨年のお客様の反応を見て、逆に海外でも受け入れていただける自信が出てきました。いまの段階で決まっているのはパリだけですが、他の国でもやれれば、と。

　できれば向こうでワークショップなどもやりたい。最終的には歌舞伎の演出を、向こうの演劇に取り入れられたら…と思いますね。また、花道があって盆があるという、いわゆる歌舞伎の劇場を、ヨーロッパに常設したい。海外の方に歌舞伎装置の劇場や演出というのは新しい試みにもなると思うんです。

　こうした夢を実現させるきっかけになったのは、やはり猿翁さんと勘三郎さんの影響が大きい。中村座の海外公演にも参加させていただきましたしね。そして続けざまに同世代のお二人が亡くなって、いつまでも夢を夢のままにしておくのは…実現させなければ！という思いが湧き起ってきました。これからも夢を追いかけ、実現させていくつもりです。

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　坂東彌十郎（ばんどう・やじゅうろう）　１９５６年５月１０日生まれ。往年の映画の大スターだった初代坂東好太郎の三男。屋号は大和屋。７３年５月歌舞伎座「奴道成寺」の観念坊で初代坂東彌十郎を名のり初舞台。時代・世話を問わずに荒事・実事・敵役・老け役まで多彩な役柄で活躍し存在感を示している。俳号は酔寿（＝すいす）。スイスには２０回近く渡航し、アルプスの山々を１万枚以上撮影。写真展を開催したほどの腕前を持つ。