中村未輝・祥馬
人間国宝・坂田藤十郎の部屋子(へやご)として、昨年1月にお披露目した中村未輝の弟で、子役として活躍していた吉岡翔馬が、中村扇雀の部屋子・中村祥馬を名乗り、大阪松竹座の「壽初春大歌舞伎」(~26日)でお披露目している。未輝は本名の吉岡竜輝で映画「少年H」のタイトロールを演じるなど子役としても活躍していた。部屋子とは子どものころから歌舞伎俳優の楽屋に預けられ、芸だけでなく楽屋での行儀などの英才教育を受ける、いわば幹部候補生。この部屋子に兄弟でなるのは上方歌舞伎界では初となる。一般家庭から歌舞伎界に飛び込んだ二人が、歌舞伎にかける思いを語った。
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-昼の部の「枕獅子」では2人は大役を務めている。傾城弥生後に獅子の精(扇雀)が衣裳替えで舞台を一度退いたときに、禿の二人だけで踊る場面がある。
未輝「正直、怖いです。2人だけであの大きな舞台を務めているので。でもスッポン(※1)やぶっ返り(※2)は楽しいです。昨年の10月に振りをつけていただき、抜き稽古も13回、本稽古も4日間やっていただきました」
祥馬「初日は緊張しましたが、最近は少しリラックスできて柔らかく踊ることができるようになった…かな」
-部屋子になっての変化は?
未「25日間、ずっと劇場にいられることです。子役の時は“お客さん”で、楽屋にいるのは、自分の出番のときだけ。でもいまは自分も歌舞伎役者として、1日楽屋にいて、旦那の近くにいられる。25日間、毎日お芝居していると日々変化がある。もちろん初日から千秋楽まで、100%のものをお見せしなきゃいけない。でもやっぱり生のものですから、機械のように毎日同じものじゃない。自分としても、やっとここが一段上がることができたな!と思っても、違うところが気になってきます。それも含めて本当に毎日が楽しいです」
祥「僕も朝から夜まで楽屋にいるようになったのが一番大きな変化です。部屋子になる前は、歌舞伎の子役をやっていても、歌舞伎の人間じゃなかった。だから学校の友達に“歌舞伎の仕事?”と聞かれも、はっきり答えられなかった。でも部屋子になったことではっきりと“歌舞伎やってます!”と言えるようになったのがうれしい」
未「子役のときは舞台化粧を全部やってもらってましたが、部屋子になってからは自分でするようになりました。昨年のお披露目の1月はずっとしてもらっていましたが、4月くらいから少しずつ自分でやるようになって、いまは自分で全部やって、最後にチェックしてもらっています。家によって化粧の手順や方法が違うので、若旦那のやり方を勉強させてもらっています」
祥「僕はまだ難しくて…下地も失敗して直してもらってます。自分ではまだできないけど、目の描き方を教えてもらって、こうすると凛々しく見えるとか、役に合った描き方を勉強してます」
-2人で家で稽古することは?
未「稽古じゃないんですが、二人で今月の夜の部『帯屋』の一場面をやりました。儀兵衛(愛之助)と丁稚の長吉(壱太郎)のやり取りの部分が息があってすごく面白い。毎日袖で見てて両方ともやりたかったので、二人で交互に儀平衛と長吉を演じました」
祥「いつも舞台袖で見ている場面なのに、実際に家でやったら難しかった。儀兵衛の笑うところが全然出来ない。儀兵衛は本当に楽しそうに笑うんですが、僕が笑おうとしてもできなかった。実際にやってみると難しかったです」
未「でも2人で歌舞伎の場面をやるのは初めてで楽しかったです」
祥「お兄ちゃんはいつも部屋で、1人で何役も演じてお芝居の場面をやってるんです。でも近所迷惑になるくらいの声のレベルなんで、僕はちょっと…(笑)」
-もともと歌舞伎俳優を目指すようになったきっかけは?
未「8歳…数えで9歳の時だったんですが、『実盛物語』に太郎吉役で出させていただいたんです。見得を切ったりと、子役なのに見せ場もあり、お客様の拍手が気持ちよかった。翌月にそのときの舞台が『演劇界』という歌舞伎雑誌に載ったので、お母さんが買ってきてくれたんです。本を読むのが好きなので、自分のところはもちろん、最初から最後まで読むうちに、歌舞伎に興味がわいてきたのがきっかけです」
祥「初めて歌舞伎に出させていただいたとき、お母さん役が男の人だったのでビックリしましたが、すごく楽しくて。『夏祭浪花鑑』で若旦那(扇雀)がお母さん役だったんですが、舞台袖で立廻りのマネをしていると“芝居が好きなんだね”って声をかけていただきました。それからお兄ちゃんが歌舞伎の世界に入って、僕も若旦那に“歌舞伎役者になりたいです”とお願いしました」
-部屋子になる覚悟は相当だったのでは?
未「僕は劇団の子役だったので、大人になったら歌舞伎は続けられないとわかってたのに、諦められなかった。ずっと歌舞伎役者になりたかった。だから旦那(藤十郎)の部屋子になれて本当にうれしかったです」
祥「周りの人には“厳しい世界だけど大丈夫?”って言われたけど、歌舞伎をやりたい気持ちが強かったから。せっかくこの世界に入れたんだから、頑張らなきゃいけないと思ってます」
-ふだんはどんな兄弟?
未・祥「よくケンカします」
未「ささいなことばかりなんですけど。でもふだんの弟を見てると、女方に向いていると思う。細かなことろに気が付いて、妥協しない性格です」
祥「お兄ちゃんはちょっとだけ面倒くさがり。部屋を片付けてても、すぐに歌舞伎の本を読みだすし」
未「祥馬ってこんなやつなんです。弟のことはこんなに誉めてるのに、僕のことは誉めない(笑)」
祥「あっ、でもお兄ちゃんは優しいし、友達も多いです」
未「もういい(笑)。でも2人とも『銀魂』が好きで、普段は漫画を読んだり、一緒にアニメを見たりしてます」
-いまは子役だが、将来的にはどちらに進みたい?
未「僕は立役です。悪役が好きなんで、『伽羅先代萩』の仁木弾正、『封印切』の八右衛門、『夏祭浪花鑑』の義平次、『河庄』の善六などを演じられるようになりたいです。声変わりもほぼ終わったので、これからはきれいな声を出せるように発声を勉強したい。ようやく夢がかない、歌舞伎役者になれた。歌舞伎役者を辞める時は死ぬときです」
祥「だんぜん女方がいい。若旦那の女方はすごくきれいで、最初に見たとき本当にビックリしました。いろんな役をされていて、今月も傾城から魚屋の女房まで、自然に演じ分けられているので、僕も若旦那のような役者になりたいです」
(※1)花道の七三と呼ばれる舞台近くの場所にある小型のセリ。通常の人間以外の妖術使いや妖怪、幽霊や精霊などが登場するときに使用する。(※2)一瞬で衣裳を替える「引抜」の一種。上半身の部分を仮縫いしている糸を抜いて、ほどけた部分を腰から下に垂らして衣裳を替える。隠していた本性を表すときに使う。
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中村未輝(なかむら・みき)2000年10月15日生まれ。07年12月南座『義経千本桜』すし屋の権太伜善太で子役として初舞台。15年1月、坂田藤十郎の部屋子となり、大阪松竹座『廓文章』吉田屋の禿で中村未輝を名のる。NHK朝ドラ「カーネーション」、映画「少年H」などに出演。日本アカデミー賞「新人俳優賞」も受賞した。
中村祥馬(なかむら・しょうま)2002年9月7日生まれ。09年12月南座『天満宮菜種御供』時平の七笑の手習いの童で子役として初舞台。16年1月中村扇雀の部屋子となり、大阪松竹座で中村祥馬を名のる。