日本には世界に誇る“コメディアン”がいる。昨年６月に英人気オーディション番組「Ｂｒｉｔａｉｎ’ｓ　Ｇｏｔ　Ｔａｌｅｎｔ　２０２３（ＢＧＴ）」で日本人初の決勝進出を果たし、「ＴＯＮＹ」の愛称で親しまれるお笑い芸人・とにかく明るい安村（４２）だ。１２日にロンドンで海外初主催ライブ「ＴＯＮＩＫＡＫＵ　ＣＯＭＥＤＹ　ＳＨＯＷ」の開催を控えた中、１年間海外を駆け抜け一変した芸人生活や、今後の展望などを聞いた。

　ロンドンを笑いの渦に巻き込んだ「ＴＯＮＩＫＡＫＵ」が、再び海を渡り大勝負に挑む。

　今回主催する公演は、ＢＧＴを経て「今後、海外で芸人としてやりたい」という思いで実現。ウエスＰ、市川こいくちというＢＧＴ出場経験がある芸人をゲストに迎え、日本の笑いを届ける。海外初主催ライブも気負いはない。「不安はもちろんある」というが海外での数々の経験を経て「なんとかなると思ってる」と楽観の笑み。公演は全編英語で披露予定だが「勉強は全くしてないですね」と謎の自信をのぞかせている。

　安村にとって昨年は、決めぜりふ「安心してください、はいてますよ」が流行語大賞トップ１０入りした１５年以来の“２度目のブレーク”の１年だった。代名詞の“裸一貫”パンツ１枚で見せる「全裸に見えるポーズ」を引っ提げ、「ＴＯＮＩＫＡＫＵ」という名前でＢＧＴに出場。それを機に「ＴＯＮＹ」という愛称で親しまれた。

　０７年から続くＢＧＴは歌手のスーザン・ボイルら数々のスターを輩出した大舞台。それでも「出番直前は全然緊張しますけど、見たことない世界だったので夢みたいな感じでやってましたね」と振り返る。登場時はその風貌に誰からも警戒をされたというが、安村がいざポーズを取れば警戒は爆笑に変わり、日本人初の決勝進出という快挙を成し遂げた。

　さらに「はいてますよ」の英語の決めぜりふ「Ｉ’ｍ　ｗｅａｒｉｎｇ　ｐａｎｔｓ！」が昨年の流行語大賞の特別賞を受賞。２度目の受賞は史上初となった。「新語・流行語大賞を受賞した芸人はその後、人気が続かないというジンクスを打ち払ってくれた」という理由での選出で、「身一つ」で返り咲きを果たした。

　ＢＧＴに出演するまでは意外にも「そこまで海外でやろうとは思わなかった」という。安村が１５年に発売した全裸ネタのＤＶＤを、スタッフがＢＧＴ側に送ったことで審査を通過。「旅行感覚でイギリスに行けるならいいかなみたいな感じだった」と軽い気持ちで臨んだ舞台が、海外進出への呼び水となった。

　快挙からはや１年。「本当に今まで想像つかないようなすごい１年でしたね」と回想した。ＢＧＴの出演を機に仕事内容も「ガラッと変わった」と明かす。イギリスをはじめフランス、アメリカなどこれまで計１１の国と地域を飛び、現在も「月１回は海外に行っている」状況。再ブレークは実にグローバルで多忙だ。

　元々はお笑いコンビ「アームストロング」として活動し、１４年にピンに転身。全裸ネタは元ＡＫＢ４８の渡辺麻友さんが１７歳だった当時発売した写真集「まゆゆ」（集英社）から着想を得た。表紙では渡辺さんが体育座りをしているが、水着が絶妙に隠れ「はいてないのでは」と思わせるカット。アイドル好きの安村は、このひらめきを形にした。

　全裸ネタも節目の１０年。１５年からのブレークが続いたわけではない。だが、「なんだかんだテレビ（出演）はなくなったけど劇場や営業があったんで普通に生活してましたけどね。テレビに出ないと『あいつ仕事全くしてない』みたいな感じだけど、意外と僕を含め『一発屋』の人たちって結構忙しそうなんで」と穏やかに語った。

　安村自身、「一発屋」の自覚が「ある」のだという。だが、一時的にブレークし、旬が過ぎたら終わりなのかと言えばそうではない。「一発屋は一発屋で仕事があるんですよね」。今、まさに世界でその言葉を体現している。

　今後も海外での活動を続けたいと宣言。基盤が固まれば「ちょっと海外メインでやってみたいっていう気持ちもあります」と語った。日本との違いとして「海外は失敗がウケない」といい「もしスベったらスベったまんまになっちゃうんで、あまり顔に出さないように、ポーカーフェースですごい笑顔でやってます」と笑顔で裏話も明かした安村。英語はできなくてもその身一つで笑いは作れる。“言語いらず”の「全裸ネタ」でこれからも世界をとにかく明るくしていく。

　◆とにかく明るい安村　１９８２年３月１５日生まれ。旭川市出身。２０００年にコンビ「アームストロング」を結成し、１４年に解散。同年、ピン芸人に転身。「全裸に見えるポーズ」で人気を博し、１５年、決めぜりふ「安心してください、はいてますよ」が流行語大賞トップ１０入り。２３年「Ｂｒｉｔａｉｎ’ｓ　Ｇｏｔ　Ｔａｌｅｎｔ　２０２３」に日本人初の決勝進出。旭川実業高校出身の元球児で、夏の甲子園大会に伝令として出場。身長１７７センチ、体重８８キロ。