東京フィルメックスの存在意義

 感慨深い受賞結果だった。

 アジアの俊英監督を集めた第15回東京フィルメックスが11月22日-30日、東京・有楽町朝日ホールなどで開催された。新進監督を対象としたコンペティション部門で最優秀作品賞を受賞したのは、フィリピン映画「クロコダイル」。フィリピン南部の湿地帯で少女がワニに襲われた実在の事件を、フィクションとドキュメンタリーを交えながらその土地が抱える問題を炙りだした野心作だ。

 監督のフランシス・セイビヤー・パション監督は、同映画祭が2010年から始めた映像人材育成プロジェクト「タレンツ・トーキョー」(当時の名称は「ネクスト・マスターズ・トーキョー」)の1期生。主演女優のアンジェリ・バヤニは、パション監督の同期で、日本滞在中は同室だったアンソニー・チェン監督「イロイロ ぬくもりの記憶」(12月13日公開)の出演女優でもある。東京で育まれた縁や才能が世界に羽ばたき、再びココに戻ってきた。しかも成長の証とも言える良作を携えて。映画祭に携わってきたスタッフにとっては、何よりも嬉しい恩返しだったのではないだろうか。

 00年にスタートしたフィルメックスは、華やかに開催されるカンヌや東京国際映画祭とは対極的な、赤じゅうたんもなければ、ほぼ一つの会場で開催される小さな映画祭である。今年の上映作品はわずか25本。しかしツウをもうならせるラインナップと、他の映画祭もやっかむようなアジアの巨匠たちがふらりと来日して観客との交流を楽しむ。今年は「CUT」(11年)のアミール・ナデリ監督が出品作もないのに連日姿を見せて、一観客として映画を楽しむ姿が見られた。筆者にとっても、アジアの期待の星の作品が見られるだけでなく、テレビや新聞では知ることの出来ない第3諸国の現実を知る絶好の機会として第1回から参加している。それだけに冒頭のパション監督の受賞しかり、映画祭の15年間の歩みと実績を実感する場面に度々出くわし、胸が熱くなった事が多々あった。

 特別招待作品「SHARING」(公開未定)の篠崎誠監督と、日中合作映画「真夜中の五分前」(12月27日公開)の行定勲監督は、共に第1回目以来となる作品を引っ提げての参加。2人とも「自分の作品をまた持ってこられたのがうれしい」と語った。日本映画界を取り巻く環境が厳しくなっている今、作り続けることの難しさを実感している2人だからこそ、言葉以上の重みを感じた。

 コンペティション作「プリンス」(マームード・ベーラズニア監督)の主演は、第1回で審査員特別賞を受賞したイラン・仏合作映画「ジョメー」のジャリル・ナザリ。タリバン政権下のアフガニスタンからイランに逃れてきていた青年だ。映画は、「ジョメー」出演後のナザリの人生を描いたドキュメンタリーなのだが、この15年でそんな激動の日々を送っていたのか!と驚かされた。彼は「ジョメー」でドイツ・ハンブルグ映画祭に参加した際、難民としてドイツに亡命していたのだ。

 そして、映画祭のラストを飾ったのは、ブラジルのウォルター・サレス監督のドキュメンタリー「ジャ・ジャンクー、フェンヤンの子」(14年)。

 中国のジャ監督と言えば、今や三大映画祭の常連監督で、今回は東京フィルメックス・コンペ部門の審査員長でもある。東京フィルメックスのプログラム・ディレクター市山尚三は、ジャ監督の2作目「プラットホーム」(00年)からプロデューサーを手がけるなど、長年彼をサポートしてきたことでも知られる。映画は、ジャ監督の故郷・中国に赴き、思い出の地を巡りながら自作を振り返るもの。山西省フェンヤンで貧しい生活を送りながら外の世界に憧れていた彼が、今やサレス監督にカメラを向けられるような世界的な巨匠になろうとは!まさにジャ監督と一緒に、時空を旅しているような感覚に見舞われた。

 人を育てること、信頼を築くことは目に見えにくい。単純に数字で計れるものでもない。ゆえに日本では特に文化的支援の理解は得にくく、94年から始まった大阪ヨーロッパ映画祭が、大阪市からの公募型助成金の額を半減されて、今年の開催が見送りになった例もある。他の文化イベントも他人事ではないだろう。それだけに根気よく実績を積み重ねていくことの意義を、東京フィルメックスが示してくれたと思う。

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