「ハエの脳」遠隔操作で“交尾のポーズ”成功 医療への活用に膨らむ期待 軍事利用への懸念も

 ハエの脳を遠隔操作して、人間にも活用しようという研究があるという。ジャーナリストの深月ユリア氏がその内容を紹介し、新たな可能性や今後懸念される課題点などを報告する。

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 学術誌「Nature Materials」(2022年6月27日付)によると、米・ライス大学の研究チームが「シンジョウバエの脳」を遠隔操作する研究に成功したという。

 囲いの中に入れたシンジョウバエの脳の電気信号を読み取り、ハエの脳にナノ粒子(※100ナノメートル以下の直径となる粒子。1ナノメートルは1メートルの10億分の1)を注入する。そして、囲いの中の磁場を変化させることでナノ粒子が脳のニューロン(※神経細胞)を活性化させる、という方法だ。この方法で、研究チームはハエを操り、0・5秒で翼を広げた「交尾のポーズ」をとらせることに成功した。

 ライス大学の電子工学・コンピューター工学の准教授であるジェイコブ・ロビンソン氏によると、「特定の神経回路を遠隔操作することは神経工学の究極の目標である」「今後の研究の長期目標は、手術を行わずに、人間の脳の特定領域を活性化させる方法を作ること」。1990年代よりMRI等といった人間の脳の活動を生きたままを観測する技術ができたが、今回の研究は「脳を遠隔操作できる」という点で画期的な技術である。

 脳学者で株式会社「脳力開発研究所」相談役の志賀一雅氏によると、「かつて電気通信大学大学院の生体情報学講座に7年所属して、脳波の研究をしていました。地磁気が強く、脳から磁気も出ているので、磁場の変化の計測は実験の準備が大変だと思います」との事で実験準備も大変だったに違いない。今後は、脳や神経の研究の他に、視覚障害者の脳を刺激することで眼球を通さずに一部の視力を認識させる、という医療目的にも応用が期待されている。

 ただし、ロビンソン氏は国防高等研究計画局(DARPA)が助成するMOANA計画のメンバーでもあり、 DARPAの主な活動は軍事利用を見据えた最先端科学技術の開発である為、一部では「戦闘サイボーグといった兵士を造り上げたり、脳波で軍事用ロボットを遠隔操縦したり、軍事的に利用されるのではないか」という懸念もささやかれている。

 とはいっても、結局はどんな科学技術も諸刃の矢だが、科学技術の進歩を止めて文明社会に逆行することは不可能だろう。

 日本でも内閣府が2050年までの目標として推進する「ムーンショット計画」では、「人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」し、「望む人は誰でも身体的能力、認知能力及び知覚能力をトップレベルまで拡張できる技術を開発し、社会通年を踏まれた新しい生活様式を普及させる」という。実現するには脳とコンピューターのインタフェースをとる機器であるブレイン・マシン・インタフェース(BNI)が必要になるので、脳波・神経の遠隔操作の研究はますます需要を増しそうだ。

 このような科学技術は使い手の企業倫理も必要だが、リスクのある研究になればなるほど、明確な技術の利用制限・基準を決める法規制が必要になってくるのかもしれない。

(ジャーナリスト・深月ユリア)

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