健康診断ではわからない「隠れ貧血」 深刻なリスクになる前に知っておきたいこと
「起きるのがつらい」「頭が重い」「立ちくらみが多い」。一見すると生活習慣のせいに思えるこれらの症状、実は“隠れ貧血”のサインかもしれません。隠れ貧血は特に20~40代女性に多いんだそう。通常の血液検査では見逃されやすいため、自分で気づかずに放置してしまう人も少なくないのだ。
まさに筆者も毎朝の立ちくらみに悩まされていて、スッキリ起きることができないといった悩みを抱えている。そこで今回は、新百合ヶ丘総合病院の袴田拓医師に「隠れ貧血」を放置した時のリスク、日常でできる対策についてお話を伺った。
-隠れ貧血と通常の貧血はどのように違うのでしょうか。
「通常の貧血は、鉄不足で血液中のヘモグロビンが減ってしまう状態をいいます。健康診断でも数値が下がって「貧血」と診断されますね。一方、隠れ貧血はヘモグロビン値は正常でも、体の鉄のストック(フェリチン)が足りなくなっている状態。体の中で鉄不足が進んでいるんです」
-特に20~40代女性に多いのにはどのような理由が考えられますか?
「一番の理由は月経です。血液には多くの鉄が含まれているので、毎月の出血で鉄が失われやすいんですね。それに加えて、忙しさからの食のコンビニ化、カロリーや見た目重視の食生活、やせ願望なども関係しています。鉄をしっかりとれる食文化からはなれてしまっていることが大きいと思います」
ー隠れ貧血になるとどのような症状が出やすいのでしょうか。
「症状は実にさまざまです。疲れやすさや集中力の低下、頭痛、冷え性、爪が割れやすい、髪が抜けやすいなどもあります。気分が落ち込みやすいのもサインのひとつです」
ー放置するとどのようなリスクがあるのですか?
「怖いケースとしては、うつや自殺につながること、心不全になることがあります。妊娠中の鉄不足は分娩時の異常出血とも関係があると報告されていて、母体にとっても赤ちゃんにとっても深刻なリスクになるんです」
-隠れ貧血は近年出てきた症状なのでしょうか。
「“隠れ貧血”という言葉は最近よく耳にするようになりましたが、症状そのものは昔からあったと考えられています。もともと世界的に女性を中心に鉄不足の傾向が強まっており、その流れの中で“隠れ貧血”という概念が注目されました。日本でもこの考え方が取り入れられ、診断基準などで示されるようになったのは2009年頃からです」
ー鉄分の吸収率を上げる工夫について教えてください。
「ビタミンCやたんぱく質と一緒に摂ると吸収が良くなります。例えば、「ほうれん草×お肉」「魚×レモン」といった組み合わせなどです」
ー手軽にできる食生活習慣はありますか
「料理する際に“鉄瓶”や“鉄鍋”で調理すると調理中に少しずつ鉄が溶けだすので、日常的に鉄を取り入れることができます」
ー「隠れ貧血」と妊娠や出産の関わりについて教えてください
「女性は妊娠期に入るまでに多くの月経を経験しています。そのため、妊娠時点で鉄不足の人が少なくありません。鉄不足だと卵子のエネルギー不足により妊娠しにくくなったり、流産や胎児への影響も報告されています。さらに妊娠後期は赤ちゃんと胎盤の鉄需要が急増するため、母体は深刻な鉄不足に陥りやすい。産後うつの背景にも鉄不足が関係していると言われています」
「隠れ貧血」は誰にでも起こり得るものだが、特に女性はライフステージごとにリスクが高まる。健康診断で異常なしでも「何となく不調」を感じたら鉄不足を疑ってみることも大切だろう。
最近では、鉄分入りの魚肉ソーセージやドリンクなど“1日分の鉄”を手軽に補える食品も増えてきているため、忙しい日でも上手に取り入れて、元気な毎日につなげていきたいものだ。
(デイリースポーツ特約・鈴木風香)
