渥美清編(下)肩ジワジワ回し私の顔が
テレビ朝日系の「田舎刑事 時間(とき)よ止まれ」(1977年7月2日放送)という1時間半ドラマでは、渥美清さんの“役者魂”を「肩」から体感させられました。
小林桂樹さん演じる犯人をもう少しで捕まえられる所まで来ているのに時効が迫っているという中、私が「あの人は海外に行ってます。だから時効は伸びます!」と渥美さんに伝える場面がありました。「よく調べたね!時効は伸びるんだね」と、喜ぶ渥美さんと互いに肩を抱き合うシーンなのですが、そこで渥美さんは私の肩をジワジワッと少しずつ回していきました。
その瞬間、長くてふわふわした髪に覆われた私の横顔は見えなくなり、渥美さんの横顔のほうが大きくフレームに入りました。監督の意図ではカメラが真横から2人の横顔を捉えるはずが、私の肩を少し回して自分の顔を多く見せようとしたの。「わ~、やられちゃった」と思いました。
昔の浅草芸人はそうだったんですってね。自分が少しでも前に出てやろう、1秒でも長く舞台に立っていたいと。我こそは我こそは~という役者魂。あんな大きな俳優さんになられても、その根性は健在だったわけです。
ちょうど「喜劇役者たち」って井上ひさしさんの本が出ていた頃で、渥美さんに「いい本だから、洋子ちゃん読んでごらん」って、このロケ中に教わったんですが、読む前に実体験として教えていただいたわけですよ。
この作品の前に私が出ていたフジテレビ系「娘たちの四季」(75年10月~76年3月)というドラマがあって、渥美さんは「洋子ちゃんの役は面白かったね」と「田舎刑事」のロケ中もよくおっしゃってくださったことを覚えています。中野良子さん、長山藍子さん、夏桂子(圭子)さん、沢田雅美さんの4人姉妹の所に、私は「異母姉妹よ」って北海道からリュック背負って出て来る少女役。渥美さんは好きでよくご覧になっていたそうです。
渥美さんは「あんまり子供をよしよしってやる、いい父ちゃんじゃないのよ」と話しておられましたが、帽子を深くかぶり、メガネ姿で運動会や学芸会に来ていた姿を知人から聞きました。“肩ジワジワ回し”での役者としての厳しさと同時に、そんな優しさにも触れさせて頂きました。