松田優作さん、時代劇でVサイン~焼肉店では私が肉担当
松田優作さんは文学座の研究生時代に年上の同期でした。初めて共演した映画は山本周五郎さん原作の「ひとごろし」(1976年公開)です。
優作さんの役は柄に似合わず臆病な武士、私はその敵討ちに協力する旅籠(はたご)の女将。2人で歩く道中でカメラが回っているというのに優作さんは突然Vサインをしたんですよ。時代劇なのにね。そのシーン、実際に映画に出てきます。監督は大洲斉さん。オーソドックスに撮られるベテランなのに、それが通っちゃった。
今でも不思議です。
研究生の頃、「洋子はテレビ、出てるからな…」。73年にNHKの朝ドラ「北の家族」でヒロインになった私に対し、当時の優作さんから言われた言葉を覚えています。「世に出たい」という思いが人一倍強い人だったと思います。
その彼も日本テレビ系「太陽にほえろ!」のジーパン刑事役(73~74年)でスターになりますが、この映画では臆病な武士役。そのギャップの面白みもあって、こういう役が来たのかなと思いました。同じ原作の映画(72年公開「びっくり武士道」)では萩本欽一さんが演じられていて、欽ちゃんの方がぴったりくる感じの役です。
優作さん演じる武士は犬が怖くて、まんじゅうが好きで、武芸が苦手。藩主の命令を受け、仕方なく丹波哲郎さん演じる指南役の首を狙う役です。彼は丹波さんにすごく対抗意識を燃やしていて、最後には妙にかっこよくなっちゃうんですよ。丹波さんに挑んで首の代わりにマゲを切る場面では“松田優作”になってる(笑)。その辺は優作さんの定規がちょっと狂ったかなと思いましたね。
私は京都の東映撮影所まで東京から小さな車を持って行ったんですが、撮影の合間、優作さんは「お~、よく来たな車で」とうれしそうに大きな体を丸めて助手席に座るんですよ。嵐山をドライブしたり、焼肉屋さんにも行きました。優作さんはセンマイ刺しが好きで、お肉はもっぱら私の“担当”。「洋子、肉食えよ」って。おかげで撮影中に太っちゃいました(笑)。
最初で最後の共演作「ひとごろし」-。あれは暑い夏でしたね。優作さんも私も、浴衣と下駄で撮影所に通いましたから(笑)。