【競馬】ファンのいないスタンドへ…福永の馬上礼をあらためて思う

 8月27日にJRAは10月4日まで無観客競馬を延長することを発表した。これにより、秋のG1シリーズ第1弾となるスプリンターズSは、春から引き続き無観客で行われることとなった。

 記者はこの業界に入って10数年となるが、今春のG1はこれまで経験したことがないものとなった。G1は多くのファンが競馬場を訪れ、場内は独特の雰囲気に包まれる。レース前のファンファーレに合わせたファンの手拍子は何度、聞いても気持ちは高揚するし、直線で大歓声は迫力がある。ただ、今年の春はファンファーレだけが場内に鳴り響き、レース後の歓声もない。目の前で行われているのに、G1ではないような錯覚に陥るようだった。そんな状況下で行われた中、最も印象に残ったのはダービーのワンシーンだ。

 レースは皐月賞馬コントレイルが制し、無敗のダービー馬が誕生した。圧巻のレースぶりもすごかったが、それよりも記者の心を揺さぶったのは、レースから引き揚げてきた福永騎手が、ファンのいないスタンドに向かって一礼した姿だ。

 レース直後、福永騎手にそのことについて聞いてみた。「スタンドにお客さんはいなかったですけど、画面越しにたくさんの方が見ていただいたと思ったので、助手の金羅君と馬が停止できたら一礼をしたいねと話をしていた。そうしたら馬がピタッと止まってくれた。(一礼をしたのは)こういった状況の中でも競馬をさせてもらっているという思いですね。感謝の思いを何かで表したかったです」と一つ一つの言葉をかみしめながら語ってくれた。

 世界が新型コロナウイルスという見えない敵と戦っている中で続いている競馬開催。複雑な思いがあっただろうし、心中の葛藤もあったはず。ただ、正解が見えない中でも前に進まなければならない。そんな今の自分にできることは何なのか。それがファンに向けての一礼だったように思う。

 無観客でスタートする秋競馬。通常通りにG1が行われるのはいつになるのだろうか。全く読めないが、ファンの大歓声に包まれたG1を終えた後、福永騎手にその時の気持ちを聞いてみたいと思った。果たしてどんな言葉が返ってくるのだろうか。(デイリースポーツ・小林正明)

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