【野球】阪神 助っ人の活躍、若手の成長も後押しする矢野監督の思い

 勝てば官軍、負ければ賊軍。勝負の世界では結果が全てを語る。

 シーズン開幕当初の6月下旬、誰が阪神の現状を予測できただろうか。開幕スタートに失敗したチームは、長くBクラスに低迷。打てない、守れない…。泥沼の6月を過ごした。

 ところが、どうだ。

 最大8あった借金を7月19日の中日戦で完済。現在、首位・巨人に大きく差を付けられてはいるが、3位まで浮上した。要因はいくつかあるのだが、まずは4番と抑えの固定。リーグトップの得点圏打率に、リーグトップのセーブ数。ジェリー・サンズ外野手、ロベルト・スアレス投手の奮闘には、矢野監督の眼力と我慢が欠かせなかった。

 サンズは昨季の韓国リーグ打点王。2軍で迎えた開幕は、左翼のスタメンが福留。昇格後はマルテもいた序盤はベンチ要因だった。矢野監督の強い推薦で獲得した助っ人。春のキャンプ中から首脳陣、評論家の中では、サンズの能力を評価する声が多かった。ただ、練習試合の再開以降も結果だけがでない。調子は上がらなかったが、指揮官は開幕ギリギリまで助っ人に打席を与えた。サンズは言う。

 「大きいのは打席で経験を積ませてもらっていること。どんどん自信を持てているし、投手の球に慣れてきたんだ」

 ベンチの辛抱、我慢は4番起用で今、花開こうとしている。球団史上初の助っ人8人体制でスタートしたシーズン。スタッフが「監督はそこしか考えていなかった」と証言するように、異国の地で戦いやすい環境作りに務めた。積極的にコミュニケーションを図り、練習後は会食の席を設けた。なにより辛抱強く起用を続けたことが、確かなメッセージになったのだ。

 特例の今季は、5人の外国人枠が設けられた。ただ、3人は登録を外れる。それでも、獲得に踏み切ったフロントの度量も忘れてはないらない。ともすれば、批判の対象になる決断。ただ、谷本球団本部長は「油断していたらファームだよ、という明確なメッセージ」と狙いを語る。

 本領発揮とまではいかないが、ジャスティン・ボーアもひたむきなプレーを見せる。中継ぎに転向したジョー・ガンケル投手も、いまや勝ちパターンの一角。オネルキ・ガルシア投手もローテーションの中で奮闘が続く。4番でスタートしたジェフリー・マルテ内野手、勝ちパターンの一角だったジョン・エドワード投手が故障離脱中。それでも、不在による戦力ダウンを感じさせないのは、球団としてのリスクマネジメント成果といる。

 CSもない今シーズン。ファンは当然、15年ぶりのリーグ優勝を望み、矢野監督らチームも逆転優勝を信じて戦っている。一方、近未来を見据えたチーム作りも充実している。昨秋のドラフトでは1位の西純矢投手を筆頭に、高校生を1~5位まで連続で指名したのは1966年の1次ドラフト以来、実に53年ぶり。その5人全員が、甲子園出場経験者という顔ぶれに「夢を追い掛けましょう」という矢野監督の意向もあったという。

 谷本球団本部長は「あまりにも10代が少ないんでね」と、チームの年齢構成を考慮した上での顔ぶれになったことを説明。「ピッチャー、野手、捕手…バランスを含めて、ほぼシミュレーション通り。逆に育成責任がズシッと両肩にのしかかってきたと思っています」と腰を据え、生え抜き選手の育成に主眼を置いたチーム作りを目指している。

 既に2年目、19歳の小幡竜平内野が1軍デビュー。西や井上広大外野手、遠藤成内野手ら、魅力的な顔ぶれがそろう。さらに付け加えておきたいのが、先発投手の層の厚さではないだろうか。

 他球団もうらやむ編成。エースで現在、ローテ最年長の西勇輝(29)を筆頭に、開幕から青柳晃洋(26)、秋山拓巳(29)が白星を重ねる。ここに藤浪晋太郎(25)、高橋遥人(24)も戻ってきた。「20代クインテット」には、まだまだ伸びしろも感じる。

 ただ、短期的に見たチーム作りの手応えと同時に近未来、中長期的なチームを思い描いても、楽しみは少なくない。勝ちながら、育てる。究極のテーマに挑戦する矢野監督。いまは2005年以来のリーグ優勝が待ち遠しい。(デイリースポーツ・田中政行)

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