【野球】ヤクルトは台湾右腕をどうして発掘できたのか 台湾の高校に在学中選手指名は史上初
今秋ドラフト会議でヤクルトが育成1位で指名したのは、台湾の鶯歌工商高に在学中の高橋翔聖投手(17)だった。日本球界では名の知られていない右腕をどのようにして発掘したのか。NPBの規約改定によって指名が可能になった右腕との運命的な出会いとスカウトの奮闘に、ヤクルト担当の高石記者が迫った。
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10月26日に行われたドラフト会議。ヤクルトは育成ドラフト1位で台湾・鶯歌工商高3年の高橋翔聖投手を指名した。台湾の高校に在学中の選手の指名は史上初。そんな“隠し玉”を球団はどうやって見つけてきたのか。
出会いは偶然だった。奥村編成部国際担当部長は新しい戦力を求めて、「ひいき目なしに高校からプロまで一通り見てみよう」と事前情報なく、台湾野球界の視察を始めた。そして今年5月。ある高校生右腕が目に留まった。187センチの長身でスリークオーター。関係者から「あの子のお母さんは日本人だよ」と、日本人の母と台湾人の父を持つハーフであることを聞いた。
帰国後すぐに球団は高橋翔が今秋ドラフトの指名対象となるのかどうか、NPBへの確認作業を始めた。
従来の規約では、指名した際の契約締結交渉期間は「会議翌年の3月末」までと定められていた。だが、台湾の高校は6月卒業。契約に支障が出てくるため、球団は内々にNPB、台湾のアマチュア野球連盟と折衝した。近年、高橋翔のように海外の学校に在学する日本人選手は増加傾向にあり、NPBはこうしたケースでの契約締結交渉期間を「7月末まで」とする規約改定を決定。今秋ドラフトから適用されることになった。
指名できるという確認が取れたことで伊東編成部長、橿渕スカウトデスクも訪台し、高橋翔をチェック。ともに高い評価だった。橿渕スカウトデスクは「実力はあるんですけど、(来年7月の入団だと)半年ぐらい支配下選手枠を圧迫する。高橋君側も育成で大丈夫ということで、指名に至った」と育成指名の裏側を明かし、「能力的には他球団も推していて、競争になったら育成では取れなかった」と振り返った。
伸びしろは抜群だ。台湾では土日に練習がなく、投球練習も週1回30球程度に抑えられていたにもかかわらず最速147キロ。橿渕スカウトデスクは「鍛錬度が低いのにそのレベルにある。まだまだ潜在能力がある」とべた褒めだ。家庭では日本語を常用。今秋ドラフトで指名がなければ、日本の大学に留学する予定だったという勤勉さもプラスポイントだったという。
球団スカウトが見る完成形のイメージは「切れ味抜群で抑えていく投手」。日本ハム入りする孫易磊投手(18)や、11月のアジアチャンピオンシップの日本戦で好投した古林叡煬投手(23)のように、台湾でもまれた高橋翔も注目を集める存在になるかもしれない。
◇高橋翔聖(たかはし・しょうせい)2005年12月17日、17歳。台湾・台北出身。187センチ、81キロ。右投げ右打ち。投手。日本人の母と台湾人の父を持つハーフ。台湾名は「徐翔聖(シュウ・シャンセン)」。スリークオーターから繰り出す最速147キロのストレートが持ち味。





