プロ野球選手からパティシエに転身し、東京・代官山で自家製チーズケーキが人気のカフェを経営していた小林敦司さん（５２）は、今年５月に店をたたんで北海道別海町に移住。現在は北海道フロンティアリーグ・別海パイロットスピリッツの投手コーチを務めている。引退以来、２４年ぶりに野球の世界に携わることになった小林さんが広島、ロッテでの１１年間の現役生活を振り返った。

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　パティシエ時代をへて、２４年ぶりに野球に携わり、初めて独立リーグ所属球団の指導者となった小林さんは、自身の強みをこう語る。

　「僕はプロ野球で下手な選手だったんで、今の選手にも伝えやすいって思うんですよ。超一流の選手が教えたら野球が難しく感じてしまうから」

　入れ替わりの激しいプロ野球の世界で１１年にわたり現役であり続けたにもかかわらず、あくまで控えめだ。

　プロ入り前から華々しい活躍をしたことはなかったと話す。

　「小中高とレギュラーになったことは一回もなかった。そう言うと謙遜してると言われるんですけど、本当です。ピッチャーは高校からやり始めたんですけど、エースになったこともないですから」

　強豪の拓大紅陵高時代に希望して投手になったが控えを脱することはできなかった。

　しかし、広島がその潜在能力を買って９０年度のドラフトで５位指名。指名がなかった場合の就職先も決まっていたが、母親の反対を押し切ってプロ入りを決断した。

　「今のドラフトだったらかからないですよ。今の高校生は実力があるから。僕は無頓着で周りの実力も知らなかったから入団したんです」

　プロ２年目には肘を痛め、挫折を味わう。遠征にも行けず居残り組として練習していた３年目の終わりごろ、巨人の主力だった斎藤雅樹投手をまねてサイドスローに挑んだことが転機となった。

　「捨て身ですよ。何か変えなきゃいけないって。スピードもコントロールも何もなかったので、居残りコーチの人とやってみて。サイドにしてみたら、ストライクが入るようになったんです。そこからです」

　プロ入り５年目の９５年７月１３日。広島市民球場での阪神戦でプロ初登板。４番手で九回に登板し、萩原誠選手にプロ２号を浴びた。萩原選手は七回にプロ１号を打っており「２号でしたか。１号の方がよかったな」と記録に刻まれる被弾とならなかったことを苦笑しつつ残念がった。

　プロ時代の一番の思い出と語るのは、同年７月２９日の中日戦でつかんだプロ初勝利だ。

　「町田（公二郎）さんがサヨナラホームランを打ったんですよね。抑えて投げ終わって帰ってきたら、ホームランが出て。あとから自分が勝ち投手だってわかった」

　３－３の延長十二回に６番手で登板し２回を無失点。その裏に劇的アーチが飛び出した。ルーキー時代の２軍監督でもあった三村敏之監督からは、ベンチでねぎらいの言葉とともに「これからがスタートだ」との激励を受けた。その言葉をかみしめつつ「若かったから、また、勝てるんだなと思ったりしたんですけど、そんな甘いものじゃなかった。でも１勝できて本当によかったなと思いますね」

　勝利投手になったのは、これが最初で最後だった。

　その後、右ひざの靱帯断裂、再建手術も経験し２年近くプレーできなかったが、苦難の時期を乗り越えて９９年には中継ぎとして頭角を現した。

　同じ小林姓の小林幹英投手との継投は「あつかんリレー」として話題となりプロ入り最多の３０試合に登板、勝ち星はつかなかったが防御率２・２０の好成績を残した。

　「たまたまですよ。僕が投げた後に幹英が投げて、たまたま勝った試合があったんで。達川さんが面白おかしく言ってくれたおかげです。達川さんが言うと話題になりますからね。幹英は抑えもやってましたけど、僕は勝ち試合に投げるピッチャーじゃなかったんで」

　当時の達川光男監督の粋な命名に感謝した。

　キャリアハイの活躍をしたこの年、小林さんはあの大物選手に頭部死球を与え、身が縮む思いも経験している。

（デイリースポーツ・若林みどり）

　◇小林敦司（こばやし・あつし）１９７２年１２月８日生まれ。東京都出身。拓大紅陵高から９０年度のドラフト５位で広島に入団。サイドスローに転向して９５年７月２９日の中日戦でプロ初勝利。９９年に３０試合に登板。００年にロッテ移籍し同年オフに引退。プロ通算１１年で５９試合に登板し１勝１敗、防御率４・４０。引退後はパティシエに転身。２０１１年から２５年５月まで東京・代官山でカフェを経営。北海道別海町に移住して別海パイロットスピリッツの投手コーチを務める。