深い愛情を感じたロッテ・吉井理人監督の涙 投手交代のマウンドでものぞかせていた親心
指揮官の涙に、深い愛情を感じた。今季限りで辞任を表明したロッテ・吉井理人監督(60)だ。
5日の対ソフトバンク(ZOZOマリンスタジアム)の試合後のセレモニーでグラウンド中央のスタンドマイクに向かってあいさつしている時のことだ。言葉を詰まらせ、ユニホームの胸を右手でつかんで下を向いた。そして、目に涙を浮かべながら天を仰ぎ、絞り出すように最下位をファンに謝罪した。「ほんまは、もうちょっとやりたかったですけど…」という言葉が、シャッターを切る私の耳の奥深くに染みた。背後に並ぶナインへの思いが伝わってきて、いつになくファインダーがにじんだ。
最下位が決定してからも、いつも通りに試合前の練習を見守り指揮を執る姿に、悲愴(ひそう)感はなかった。このまま来季もやるような気がしてならなかった。普通、退任が濃厚となった指揮官は、どこか悲哀が漂うものだが、それが感じられなかった。
令和の怪物こと佐々木朗希を育てながら指揮を執り、メジャーに送り出した後も、選手育成を大事にしながら勝利を目指す姿勢は一貫していた。イニング途中の投手交代の際は必ず自らマウンドへ行き、降板する投手に声をかけ、登板する投手にボールを渡し、お尻をポンとたたいて激励した。その姿にはいつも親心を感じた。「この経験を次に生かしてほしい」というコメントを何度、目にしただろう。目先の結果にとらわれずにプロセスを大事にする指揮官だったからこそ、最終戦まで戦う姿勢を崩さなかったのだろう。
昨オフのファン感謝デーで、メジャー挑戦を表明していた令和の怪物が、吉井監督に促され、壇上でファンに意気込みを語り、目に涙を浮かべた。シンガー・ソングライターのあいみょんのファンを公言していた令和の怪物。ヒット曲の「裸の心」の歌詞が、私の耳の奥でリフレインしたことを思い出す。
勝つことと、選手の育成を両立するのは難しいと改めて思う。しかし、吉井監督がまいた種は、きっと来シーズン以降に大きな花を咲かせるだろう。(デイリースポーツ・開出牧)





