医師の立場から見た反則タックル…一生を変えてしまうような行為
「町医者の独り言・第30回」
行きつけの散髪屋さんに行きました。きょうこそ髪が少ないのだから値切ってもらう話を店主に切り出そうとすると、アメリカンフットボールの選手が後ろから反則タックルをされた話になりました。実は、この店には、関学のアメフット部員も来ているんです。鏡に映った自分の顔を見て憂うつになりながら、2人で「ひどい事件だ!」と憤慨しました。
ニュースで流れていたスローモーションを見ると、無防備の人間に背部からタックルしています。強烈なエネルギーが腰部に加わることにより、身体はいったんエビぞりのようになり、その後、勢いよく頭から前方に倒れ込んでいるように見えました。
医師の立場からみると、タックルされた部位の背骨が折れたり、脊椎(せきつい)がずれたりすることによる脊髄損傷、脊髄の過伸展による鞭打ち、脳振とうが危惧されます。脊髄損傷と一言で言っても、損傷部位によって様々な症状が出るんです。損傷部位が頭に近づけば近づくほど患者さんの生活の質は低下します。
首を損傷すると、一生寝たきりの生活になってしまったり、ひどい場合は呼吸さえも自力でできないために、機械を用いた補助呼吸が必要になってくることもあります。簡単に言うと寝たきりで人工呼吸器につながれ、会話も食事もままならないという状態です。あのタックルされた若者が残りの人生をこのような状態で過ごすことになったかもしれないということです。
脊髄の損傷部位が頭から遠ざかるほど、障害の程度は軽くなります。それでも電動車いすで食事は自分で食べることができないなど、ひどい後遺症があるということを覚えておいてほしいのです。報道によると、今回はそこまでの大事に至らなかったようです。けれど、脊髄損傷が起こって、車いす、松葉づえなどを利用せざるをえなくなり、今まで普通にできていたことが急にできなくなることが、どれほど辛い事か…想像は難しいかもしれませんが、考えてみてください。
一時の誤った“思考”が、その人の一生を変えてしまうこともあります。少しショックに受け取られかねない内容も書きましたが、ああいう蛮行を行ったり、誰かにさせることは取り返しがつかないことになりかねません。特にスポーツ、格闘技などをなさっている方は、今回の事件について、改めて考えていただきたいと切に願います。
◆筆者プロフィール 谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。
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