「天高く馬肥ゆる秋」 秋の空が高く見えるのは理由がある→空気が澄んでいる以外に雲の違いが
今年の9月はとても秋の気配を感じるどころではなく、夏の延長のような暑い日が続きました。もはや日本の9月は夏です。さて「天高く馬肥ゆる秋」という諺があります。「天高く」とは、空気が澄んで高く晴れわたる秋の空を表しています。
秋の空が高く見えるのにはいくつか理由があります。まず、秋は空気が澄んでいるという点。夏の空気は水蒸気を多く含み、水蒸気が多いと空は白っぽくみえます。空気中の水分が太陽光を散乱するからです。秋の空気は乾燥していて水蒸気が少ないので、太陽光は散乱しにくくなります。そのため、空気の透明度が高くなり、秋の澄んだ空気の下では、空が一段と高くなったように見えるのです。
さらに夏と秋では、雲の種類が違います。夏の代表的な入道雲は、よく発達していて高く盛り上がっていますが、雲の底は高度の低い位置にあります。綿雲のように空の低いところに浮かぶ雲もよく見られます。このように夏の雲は高さが低いため、空が小さく見えます。うろこ雲やいわし雲など、秋の雲は高い位置に美しく並んでいるため、空が広く見えて、高く感じるのです。一種の目の錯覚ですね。
さて、「馬肥ゆる」ですが、涼しく快適な秋になると、暑い夏に消耗した体は元気を取り戻し、食欲も増します。馬も人間と同じで食欲の秋。よく草を食べて肥えていくという意味に聞こえますが、実は元々は、さわやかな秋を表す言葉ではありませんでした。
その昔中国では秋になると北方の騎馬民族が、元気になった馬に乗って、麓の集落まで遠征して秋の収穫物を略奪にやってきていたのです。襲来する騎馬民族に対して防備すべき季節がやってきた、という意味が元々の語源なのです…爽やかな秋なのに殺伐とした話になり、申し訳ありません。
◆松本浩彦(まつもと・ひろひこ)芦屋市・松本クリニック院長。内科・外科をはじめ「ホーム・ドクター」家庭の総合医を実践している。同志社大学客員教授、日本臍帯プラセンタ学会会長。
