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ライバルの新庄を指導、虎で初めて背番号「0」を着けた男 一度は「忘れたい」と思った野球と向き合う理由

 阪神の暗黒時代、チーム初の背番号「0」をつけた中野佐資さん(58)。虎の「少年隊」として注目を浴びたが、現在はスポーツデポ・宇都宮店に勤務し、野球アドバイザーとしても活躍している。現役時代は俊足巧打はもちろん高い守備力を誇っていたが、一方で同じポジションでライバルだった新庄剛志に指導を行い、才能を開花させることに一役買っていた。

  ◇   ◇

 一度は「野球を忘れたい」と10年ほど建設業に身を置いたことがあるが、2019年から地元のスポーツデポに勤務。野球アドバイザーとして少年野球などの指導を行っている。中野さんらしいのはグラブへの愛情。ついつい営業を忘れてしまうと笑い飛ばした。

 「だってね。エラーばかりするので新しいグラブを買いに来た、というお客さんに“それよりも古いグラブの手入れをすることが大事”と説教するんですから。商売あがったりでしょう」

 この16日には東京・浅草橋駅近くのヒューリックホールで自身がかかわるスポーツ用品の展示会が2年ぶりに開催され、中野さんも宇都宮から現地に。午前中から昼過ぎまで接客や新製品の説明にところ狭しと動き回り、午後からはあいさつ回りで都内を駆けずり回っていた。

 そんな中野さんは国学院栃木では主に投手だったが、左投左打の俊足外野手として三菱重工横浜から85年ドラフト2位で阪神入団。ガッツあふれるプレーが売りだった。転機は村山監督が2度目の指揮をとることになった87年オフ。「13番は投手の番号や。ゼロにしなさい」と言われ、阪神初の背番号「0」をつけることになった。

 さらに和田豊、大野久とともに当時の人気アイドルグループにちなんで「少年隊」と呼ばれた。「嫁さんもいるのに少年隊はないやろうと思いつつ、期待されているのがうれしかった」と言う。

 88年4月には期待に応え、巨人・桑田真澄から決勝打。熱血漢、村山監督の涙腺を決壊させた。89年には自身最多の出場124試合。11本塁打を放つ一方でリーグ最多の17死球を受けたが、いかにボールに向かって踏み込んでいったかが分かろうというものだ。

 身長169センチ。その根底にあったのは反骨心だったか。そのあたりを村山監督に評価されていたが、スマートな中村勝広監督になると徐々に出番が減っていく。92年には八木裕が三塁から外野へ。さらに亀山努、新庄剛志の若手が急激に台頭したからだが、ベテランの真弓明信から「お前、監督となんかあったのか?」と心配されるほどだった。

 実は私は生前の村山、中村両監督とそれぞれ酒席を何度もともにしたから2人の性格はよく分かる。だから、これら一連のことは理解できた。だが、中野さんが凄いところはここからだ。外野の定位置を争うライバルに惜しげもなく基本を教えた。

 「新庄は内野手で入団してきたから外野守備は初めて。なのでイチから教えましたね。まず私の外野手用のグラブをあげました。グラブの手入れから打球の見極め方、スタートの仕方、打者によっての守備位置。スローイングも基本から伝えました」

 しかも、驚いたことに覚えがとにかく早い。

 「亀山は2年ほどかかりましたが、新庄はその場で言ったことは2、3分ですぐに実行に移せた。教えがいがありましたね。これぞ天才。同時にこいつには叶わないとも思えていきました」

 プロの世界は教わるのではなく、見て盗め、と言われる。古い話だが、新人の鈴木啓示がベテラン金田正一に球宴の時に「カーブの投げ方を教えてください」と頼んでも「金を出せ!」と返され、教えてくれなかった話は有名だ。だから当時、チームメイトの真弓が「同じポジションでそこまで教えるのは信じられない」と人の良さにもほどがある、とあきれていたという。

 「新庄は私が教えたことにプラスして、自らの独特な守備もアレンジして、個性を磨き、メジャーにも行った。しかもメジャーから帰ってきても“あのときのことは忘れていません。感謝しています”と言ってくれたので、私のしたことは間違ってなかった。そう思っていますよ」

 93年、30歳の若さで引退。その後、マスターズリーグに籍を置いたが、一度は野球から離れたくて建設業界へ。

 「でも、10年続きましたがやはり野球が忘れられなかったです。いまは野球道具をいかに使うかのメンテナンス面を重視する用具店に変わって生き甲斐を感じています。野球を教えるのも楽しい」

 もちろん、8カ月になる孫娘がかわいくて仕方がない。東京での仕事を終えると、急いで宇都宮に帰ったのは言うまでもない。

(まいどなニュース特約・吉見 健明)

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