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「派閥の影響力は?」「世代交代は進む?」 豊田真由子が自民党総裁選を深掘り解説

9月17日、自民党総裁選が告示されました。総裁選は、その選挙方式や党内の深謀遠慮もあり、最終的にどなたが勝つかは、まだまだ分からない、と思います。

政治の世界の論理というのはかなり特殊ですし、一般の方からは、混沌とした状況について「何がどうしてそうなっているのか」が、分かりにくい部分も多いと思います。連日報道も過熱していますが、通常とは少し異なる視点も交え、掘り下げてみたいと思います。今回は後編。

■派閥は力を失っていく?

今回の総裁選は、各派閥が、支援候補を一本化しない・締め付けができない、派閥が力を失っていっている、と言われます。もちろんそういう面もありますが、ただ、話はそれほど単純ではないと思います。
今回の総裁選も「自主投票」とは言いながらも、実際はいろいろと調整が行われていますし、若手が派閥の意向と無関係に動き回っているわけではありません。政治力学を考えれば、決選投票になった場合には、一致団結してひとりの候補を支援する派閥も多いと思います。

派閥が果たしている役割は、今も決して小さくありません。確かに中選挙区の往時に比べたら、力は弱くなりましたが、依然として、公認争い、人材育成、居場所確保、財政的援助など、政治という特殊な世界で、派閥が必要とされる理由があります。「派閥」というと、旧態依然の金権政治の象徴のように言われ、マイナス面ばかりが強調されますが、「政治」という特殊な世界で、人を育て、政策を作り、国造りの力となっている面も、あるのだと思います。

(もちろん、悪しき点は、どんどん変えていかなければなりません。派閥を擁護しているのではなく、本稿では、そのリアルをご説明したいと思っている、ということです。)

議員というのは、極めて孤独な仕事です。やった者にしか分からない苦労があり、国会でも地元でも、気の休まることのない日々の中で、思いを共有できる議員同士の結びつきというのは、自然と濃く強くなります。派閥に属することで、仲間ができ、居場所ができる。(もちろん、「同じ派閥に属しているから、皆が仲良し」なんてことは、全くないわけですが。)派閥が求められる理由には、こうしたウェットなものもあります。

そして、議員にとって最初の最重要事項である公認争い、すなわち、「自民党の敵は、(野党ではなく)実は、自民党」ということの熾烈さです。

現在も、例えば、山口、群馬、静岡、新潟などの衆議院小選挙区で、自民党の現職議員同士の公認争いが行われていることは、よく知られていますが、これは珍しいことではありません。公認というのは、「自民党の候補者として選挙に出られる資格」であり、公認が得られなければ、無所属で出馬せざるを得ず、その場合、党からの応援も地元の支援も無く、比例復活もできません。公認が得られるかどうかは、まさに、天と地ほど違いがあります。

このように自民党の議員同士が公認を巡って争う、というときには、当然ながら、それぞれが所属する派閥同士が強力にバックアップして戦う、ということになります。こうして、議員にとって派閥は、自分を守ってくれる・頼りになる存在・命綱、ということになっていきます。

ただし、「派閥は家族のようなもの」とは言っても、いろんなケースで、最後に梯子を外される、見捨てられる、ということもよくあり、昔のように、「何があっても守り抜く、仁義の親分・子分・兄弟分の関係」といったものは、失われているとは思います。

余談ですが、選挙の公認争いというのは、現職の議員同士だけではなく、現職を新人が追い出そうとする場合や、空白区で新たに候補者を選ぶ場合に、「誰が公認候補に選ばれるか」の争いもあります。そこはまさに、「殺るか殺られるか」のドロドロの世界であり、ほとんど表には出ませんが、選ばれた候補や議員に対し、地元では、様々な謀略や苛烈なイジメが、延々と続くことになります。

政治の世界は、本当におそろしいっ。

■「世代交代」が進んでいく?

今回の総裁選を前に、若手の会が作られ、人数の多さ(90名)からも、「若手の反乱か!?」と話題になりましたが、こういう場合よくあるのですが、とりあえず顔を出して「保険」をかけておく、他陣営から様子を見に行っている、といったいろんなケースがあります。

若手の会として総裁選の支持候補を一本化するわけではなく、今回「台風の目」になるということではないようですが、「国民から見て、良くないと思われているところは、ちゃんと変えないといけないと、党内からも思っている」という若手の意思表示と、それを党の執行部に認識させた、という意義はあるのだろうと思います。

ただ実は、政治の世界の「世代交代」というのは、国民にとってそう良いことばかり、というわけではないと、私は思います。

「国政」において、政権与党が考えるべき・守るべき対象は、全国民です。すべての世代、あらゆる職業、あらゆる思想信条、様々な人生、多様な苦しみや悲しみを持つすべての国民を理解し、守り、希望を持てる国を造っていかねばならないのです。

そうした幅広い対象の方々の思いを理解し反映した上で、政策を具現化していくためには、当然ながら、幅広い世代による運営と、長年の様々な経験から培われた見識や実行力が、不可欠です。

そしてまた、政治における教育や人材育成というのは、例えば、歌舞伎や宮大工といった伝統技能のようなところもあって、仕組みやマニュアルではなく、経験者から若手に、時間をかけて、しっかりと伝えていく、多くの大切なことを引き継いでいく、という地道な作業が必要になります。

通常の会社と違い、政治の世界には、その職務の特殊性から、システム化された人材育成の仕組みも、継続的な研修やマニュアルといったものもありません。(仮に、マニュアルがあったところで、それを読めば分かる、できるようになる、という仕事でもありません。)そうした中で、様々な経験をしてきた先輩方からじっくり学ぶ、というのは、重要な人材育成の場となっています。(もちろん、なんでも言いなりになる、悪しきことも踏襲する、という意味では、ありません。)

こういった意味からも、重鎮を一掃して、若手だけでやっていけばいいんだ、というほど、単純な世界ではないと私は思っています。(例が適切か分かりませんが)例えば、グローバルな総合商社において、突然、取締役を一掃して全員を退かせ、「これからは、数名の部長と、課長・係員で、世界を相手に、全部やっていくんです!」というやり方は、社内はもちろん、国内外の取引全般において、きっとうまくいかないでしょう。そして、政権与党は、もっと広く、日本国と日本国民全員に責任を負う存在です。

なお、今回、伊吹文明元衆議院議長をはじめとする、多くの自民党の重鎮の方々が引退されます。幅広い経験見識・人脈・政策力を基に、派閥の枠を超えて、若手に対し「日本国のために、諸君はかくあるべき」という薫陶をされ、ときには政権に厳しいことも躊躇なくおっしゃり、議論が紛糾してまとまらない案件も、最後ビシッとまとめ、そして皆がそれに従う--そういった党内の貴重な「重し」がなくなっていく、ということは、実は、総裁選の後ろに隠れた、自民党にとってのひとつの危機なのではないか、と私は思っています。

■国民のための政治を

連日の総裁選の報道を見て、「内輪の中のことにばかりに熱中して何やってんだ」、「新型コロナもまだ収まらず、国民の社会経済生活が大変厳しいのに」というお声も多くあると思います。自民党の総裁は、おそらく次の日本国の総理になりますので、そうすると、今回の総裁選というのは、今後の日本の舵取りをどうしていくか、の選挙ということになります。

新型コロナ対策、経済対策、社会保障、安全保障、子育て、教育等々--国民は、多くの困難に直面し、迅速で具体的な解決を求めています。

真に国民の声を聞き、政策を理解し、判断し、実行する。--総裁選で様々に表明される理想が、きちんと実現され、積み重なった国民の不信を払しょくし、安心と希望を実際に構築できるか。簡単なことではないですが、自民党にとっても、国にとっても、正念場だと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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