「『信仰しない私』を認めてほしい、それだけなのに」既読スルーでも毎日届く親からの勧誘LINE 20代女性の苦悩

 「ああ、またか…」。首都圏に住む20代の女性は家族のグループLINEに送られてきた母のメッセージを見て、心の中でつぶやいた。「この教えはあなたを救ってくれる」「この話読んでみて」。毎日のようにメッセージが届くが、女性を含めて4人いるきょうだいからの返事はない。「みんな既読スルーなのに…」とため息をつく。

■幼い頃から生活の中にあった教え、芽生えた不信

 両親は宗教団体の熱心な信者で、小さい頃から「教え」は朝も夜もずっと生活の中にあった。疑問を持つこともなく、親と一緒にお祈りをしていた。小さな違和感を抱いたのは、小学校高学年のころ。友達と話していると、自分の家との習慣の違いや、みんなが当たり前にしている年中行事を全く知らないことに、心がざわついた。

 中学生になり、違和感は不信感に変わった。友達とのトラブルで悩んでいることを打ち明けても、母は「つらい事があったら心の中で祈りなさい」と言うだけ。一番仲良かった友達が不登校になり落ち込んでも、ただ同じ言葉を繰り返した。「普通に励ましてほしかっただけなのに。この人には何を言っても通じないんだな、と分かっちゃったんです」

 子どもたちの心が離れていくのと反比例するかのように、両親の信仰心は年々篤くなった。車で出掛けると道中にきまって「一緒に信仰しよう」と素晴らしさを説く母。聞きたくなくて、寝たふりを続けた。母と二人きりの時間が苦痛で仕方がなかった。

 両親と距離を取りたくて、一人暮らしができる距離で、かつ学費も安い国公立大を受験し、合格した。難関突破に両親は喜びはしたが、認めてくれたとは思えなかった。

■渾身の“拒絶”も、変わらぬ親「私って一体何」

 大学で社会や法律について学び、両親が言い続けてきたこととの矛盾も感じるようになった。いつものように勧誘をしてくる両親に「教えも主張も、結局口だけでしょ!」とぶちまけた。両親は何も言わなかったが怖くて目を見ることもできず、部屋に戻り布団に潜り込んだ。だが朝になると、母は何事もなかったかのように信仰のすばらしさを女性に語った。

 大学を卒業した日、今までの感謝とともに、「これからは社会人として頑張るね」と伝えても、返ってきたのは「そういうことも大事だけど、信仰をしていないと幸せにはなれないよ」という言葉。そして勝手に契約された新聞が、ポストに届くようになった。

 「もう、何を言っても一緒。これだけ子どもが拒絶しているのに、リアクションは変わらない。子どものためにと言ってくれているんだろうけど、それが私たちを追い詰める。4人もいる子どもも信者を増やすためだけの存在なんじゃないか。結局『私も信じます』と言わない限り、認めてもらえないんじゃないか。そう思ってしまう。私って一体何なんだろう」

 友達に話しても、理解どころか「ヤバいやつ」と思われそうで誰にも相談できず、ずっと心に押し込んできた。好意を寄せてくれる男性もいたが「いずれは親の宗教のことを伝えなければいけない」という思いが頭の中に張り付き、それ以上踏み出せなかった。何のために生きているか分からず、漠然と「死にたいな」と思ってしまうこともあるという。

■親を否定するつもりはない。ただ認めてほしい。

 最近になり、親の信仰と自分との関係に悩む「宗教2世」という存在がクローズアップされ、Twitterなどでは「親と断絶した」という人の体験も読んだ。だが、思い出の中の両親は優しく、困っている人がいたら助け、間違ったこともしない。家族で過ごした時間も温かくかけがえのない記憶だ。「宗教が絡まなければ、家族の仲もいいし、親の人柄もいい。縁を切ることもできなくて、でも信じ切れなくて。まだ変わるかもしれないって期待を捨てきれないし、まだ認めてもらいたいっていう思いも諦めきれないんです」

 選挙カーの声が遠くに響く。少子化や高齢化も問題と知っている。「いつかは結婚を」とも思うが、勧誘が孫にまで及ぶかと思うと、子どもを産みたいとは思えない。

 「信じたければ、信じていていいんです。信仰をしている両親を否定したい訳でも、バカにしたい訳でもない。ただ、子どもにそれを押しつけないで欲しい。一人の個人として、『信仰しない私』を認めてほしい。それだけなんです」

(まいどなニュース/神戸新聞・広畑 千春)

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