事故で両親が死亡 障害者が内に秘めた在宅への願いと不安 察した支援者に泣きながら「それを言いたかったです」

「自分の思いはしっかり伝えよう」「言わないと相手に伝わらないよ」…みなさんは、これまでにそんな言葉を言われたことはありますか? 自分の思いを言葉で伝えることは簡単なことのように思えるかもしれませんが、障害があるがために、伝えたくてもうまく伝えられない方がいます。精神障害があるHさんもその一人です。Hさんは言葉は話せますが、自分の思いを適切な言葉で伝えられないため、誤解をされたり、理解してもらえないことでつらさを感じた出来事がありました。

Hさんは他者とのコミュニケーションが苦手です。学生時代は自分では人を傷つけるような発言はしていないつもりでも、相手がなぜか怒っているといった状況が続き、しだいに友達との交流は減っていきました。

高校を卒業後、アルバイトをしていましたが長くは続かず、バイト先を転々としていたところ、両親の勧めもあり、障害福祉サービスの就労継続支援B型事業所へ通所することとなったのです。

事業所では毎日通所し軽作業を行いながら、自分の居場所を見つけたように笑顔もよく見られるようになり、スタッフや他の利用者様とも話をよくするようになりました。

そんなある日、Hさんと一緒に住んでいた両親が交通事故で亡くなりました。Hさんはこれまで生活全般を両親に世話してもらっていたので、Hさんと支援者たちが集まり、今後の生活について話し合いを行いました。

Hさんに今後どうしたいのかと何度も聞くある支援者がいました。Hさんは聞かれる度に「一人で住みたくないです。でも、自分の家にいたいです」と繰り返していました。

話し合いに参加していたほとんどの支援者は、「一人で住みたくない=グループホームへの入所」と考え、その方向性で話が進みかけていました。Hさんはその話を聞き「うーん」と言ったきり、何も話さなくなりましたが、支援者の多くは「何も言わない=了承した」と捉えていました。

しかし話し合いが終わりかけたとき、その様子を見ていたHさんの通所先のスタッフが、Hさんに「ご両親と一緒に過ごした家にいたいけど、食事とか掃除が苦手で一人で住むのが不安だったりしますか?」と聞きました。すると、Hさんはポロポロと涙を流してうなずいたのです。

支援者の一声にうながされ、「ありがとうございます。それを言いたかったです」と小さな声で話し始めたHさん。その結果、グループホームの入所はなくなり、居宅介護サービスと訪問看護などを利用しながら、両親と一緒に過ごした家で一人での生活がスタートしました。

   ◇   ◇

会話ができても、自分の思いをうまく伝えられず、なかなか他者に理解してもらえない…そんな目に見えない生きづらさを抱えている方は、少なくありません。そのような場面で重要になってくるのが「意思決定支援」です。

意思決定支援とは、日常生活や社会生活に関して自らの意思が反映された生活を送れるように、支援者が行う行為や支援の仕組みを意味します。

このたびHさんに声をかけた支援者は、日ごろからHさんに話しかけており、何気ない会話からHさんのニーズをくみ取っていました。「わかっているつもり」「理解しているつもり」などの思い込みが、本人の意思とはかけ離れた決定につながり、本人らしい生活を奪ってしまう恐れがあることをあらためて知る機会となりました。

医療や介護、障害ある人たちへの支援の場において、価値観や選択肢の多様化などもあり、意思決定支援の重要性はますます高まっています。多くの人たちに考え方が広がってほしいです。

(まいどなニュース特約・長岡 杏果)

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス