【阪神ドラフト選手特集・伊原陵人(下)】個別練習一切妥協せず 濃密な社会人2年間
10月のドラフト会議で阪神から指名を受けた9選手(1~5位・育成1~4位)の連載をお届けする。今回はドラフト1位の伊原陵人投手(24)=NTT西日本=で指名漏れを経て進んだ社会人時代を振り返る。
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大商大4年だった22年ドラフト会議で指名漏れを経験した伊原。「漏れて良かった。向上心であったり、試合でもっと勝ちたいっていうようなところにつながった」。悔しさがNTT西日本で自身を律する大きなきっかけとなった。
プロ入りに足りなかったのは何か。「真っすぐが一番弱かった」と分析した。大学まではウエートの施設などもなく、投げ込むことで直球の質の向上を図っていた。しかし、NTT西日本では直球の球速を上げるための方法を自己分析し、トレーナーにも相談。ウエートをメインに、キャッチボールから見直すなど試行錯誤した。社会人1年目は140キロ序盤だった球速は、2年目の都市対抗の予選で149キロを計測。思い切った方向転換が奏功した。
社会人野球では、個人に任される時間が増えた。NTT西日本の河本監督は「サボろうと思ったらサボれる。ただ、やっぱり大学からプロに行けなかった悔しい思いが、『この2年間でプロに行ってやる』っていう内に秘めたものになってにじみ出ていた」。個別練習の時間も一切妥協せず、懸命に取り組んでいたという。
全体練習は基本的に午前中で終わる。午後からはフリーになるため早々に切り上げる選手もいる中、伊原がウエートルームに遅い時間まで残っているのは日常茶飯事だった。「自分の好きなことをやらせてもらえる環境をつくっていただいているのが非常にありがたかった」と振り返る。
前向きに野球に向き合う姿勢は周囲にも影響を与えた。投手からはもちろん、野手からも絶大な信頼を得た。「もし伊原が打たれても取り返してやろう」と、チームの団結力が強まった。登板しない試合でも一番声を出し、チームの勝利のために何をすればいいのかを考えた。そんな左腕を河本監督は「いるのといないのとは全然違う。絶対的存在」と表現した。
伊原は「やっぱり応援された方がいいですし、僕自身、応援してもらいたい」と入団後も応援され続けることを目標の一つにする。2年間の濃い時間で野球に取り組む姿勢や人間力の完成度を高めてきた左腕。阪神ドラフト1位として、新たな野球人生がここから始まる。
◆伊原 陵人(いはら・たかと)2000年8月7日生まれ、24歳。奈良県出身。170センチ、77キロ。左投げ左打ち。投手。智弁学園、大商大、NTT西日本を経て24年度ドラフトで阪神から1位指名。直球の最速149キロ。球種はカットボール、スライダー、フォーク、カーブ、ツーシーム。趣味はアニメを見ること。