ゴルフに興味がなくなり野球一筋の阪神・岡田監督 リーダーの共通点は「決断」「負けず嫌い」「切り替え」【13】
2位になったことは、気にすることもない。日本一になった1985年だって、8月に6連敗して3位まで落ちた。岡田監督の気持ちは、簡単なものではないだろうけど…。勝負の世界に生きる人は「負けず嫌い」が尋常ではない。
「えらいもんやなあ。途端にゴルフの興味がなくなってしもうたわ」
岡田監督が漏らしたのは今回、阪神監督就任が決まった直後のことだった。岡田監督にとって最上位の「勝負」は阪神監督としてのもので、ゴルフは遊びでしかない。
わたしが岡田監督とゴルフのラウンドをした回数は、40年近くで数百回以上だろう。ゴルフは性格が出る。岡田監督は…。負けず嫌いなのは言うまでもないが、わたしと組んで一番怒るのは、意図のないプレーをしたときだ。
岡田監督の言う「よっさんのゴルフ」とは「大丈夫会」と名付けたコンペのことだ。もとは西本幸雄さんを囲む関西に拠点を置くプロ野球OBが、月に一度くらい「大丈夫かい?」と顔を合わす場だった。
ベテランのトラ番記者も加わり、阪神では吉田監督、一枝コーチに真弓さんや福間さん、中田、中西、八木といった顔触れだった。最盛期には小山正明、藤田平、山田久志、福本豊、鈴木啓示、長池徳士さん、大熊忠義さんといったそうそうたるメンバーが並んだ。上岡龍太郎さんもいた。
上岡さん、鈴木さん、岡田監督、わたしというメンバーでラウンドしたとき。サウスポーの鈴木さんはとにかく、ドライバーの飛距離にこだわる。「わしのほうが飛んでいる」と2打目は絶対、先に打たない。
上岡さんは引退宣言した直後だった。アメリカでプロに挑戦するための修業をするという噂があった。一緒にラウンドすると、飛距離もスコアも素人並みだった。「プロを目指すというのは?」とわたしが思わず聞くと「あんなんウソに決まってますやん」とあっさり否定された。芸能界のトップに立った人。どの世界でもリーダーに共通するのは「決断」「負けず嫌い」そして、「切り替え」だ。
岡田監督のゴルフは飛距離、小技すべてに本気でやればシングル級の腕前だ。特にパットにはこだわる。トゥを立て、ソフトに当てる。早いラインに乗せて転がして入れる。突っ立ってゴツンと打つわたしのパットを見て「何しとんねん?」とあきれている。
あまりにもパットが入らないと「もういらん」とパターを投げ捨てる。吉田監督は短パットを外すと、グリーンの上でも文字通りじだんだを踏むが…。バーディーを入れにいくか刻むか、相手の状況次第で岡田監督は、狙いを明確にする。
ゲッツーかバックホームかと同じ。どこからでもピンだけを狙って池に落とし、3パットを繰り返すわたしに「別に入れろと言うてないやん。頭使えよ」と不機嫌になる。
吉田監督には「惜しい」と声を掛けると「ゴルフに惜しいは、いりまへん」と言われる。わたしの腕と頭をチョンと指して「あんたのゴルフはここやのうて、ここが悪い」と言われたこともある。
岡田監督はユニホームを着ていないときには毎月、コンペに参加していた。沖縄ではスコアに納得できず、ラウンド後に「次や。キャディーさん隣のゴルフ場まで行って」とそのままカートで別のゴルフ場に行った。
それほど好きだったゴルフも、ユニホームを着れば興味がなくなる。「野球」で頭の中はいっぱいだろう。ここは切り替えて、別のゴルフ場でティーショットをするつもりで、2位からの再スタートだ。(特別顧問・改発博明)
◇改発 博明(かいはつ・ひろあき)デイリースポーツ特別顧問。1957年生まれ、兵庫県出身。80年にデイリースポーツに入社し、85年の阪神日本一をトラ番として取材。報道部長、編集局長を経て2016年から株式会社デイリースポーツ代表取締役社長を務め、今年2月に退任した。