藤浪のメジャー挑戦を支える男 トレーナー経験豊富な〝新米通訳〟は向上心のかたまりだった
プロ野球がキャンプインしました。藤浪投手の姿がないのは寂しいけど、彼には阪神の代表としてメジャーで活躍してもらいましょう。そんな右腕の英語スピーチが話題となったアスレチックス入団会見は、同席していた〝ある人物〟も極度の緊張状態だったそうです。
彼の名前は鎌田一生。通訳兼パーソナルトレーナーとして藤浪のメジャー移籍1年目を支える人物です。会見には通訳として参加していたのですが、机の上に置かれたネームプレートには「Issei Yamada」の文字。本人は緊張のため気づいておらず、友人からの「ヘイ、ヤマダ!w」というメールで事実を知ったそうです。
カナダ人の筆者からすると、この会見からは「通訳業」の大変さが痛いほど伝わってきました。英語に直訳できない日本語があり、逆もある。藤浪投手の発言にあった「腕を振る」「思いっきり」「覚悟を決めて」などは、直訳すれば変な英語になってしまう。考える時間があればなんとかなるけど、瞬時に対応するのは難しい。筆者も英訳に何度か首をかしげましたし…藤浪はこれから大丈夫かな?心配やわ!で、そんな鎌田氏にお会いする機会に恵まれました。
聞くと、実は入団会見が通訳としては初めての仕事だったとのこと。あの場での〝苦戦〟は想定内だったはずで、これからどんどんスキルアップしていくことでしょう。
そんな彼の本業はトレーナー。日本ハム、阪神、オリックスの3球団でチームトレーナーを務めた経歴を持ちます。高校卒業後に渡米した鎌田氏は、現地の大学大学院に通って様々な資格を取得。その後は野球関係の仕事を熱望し、まずは米国マイナーリーグでトレーナーの職に就きました。しかし「向こうはメジャーに昇格するには、平均10年間マイナーで経験や実績を積むのが最低条件」(鎌田氏)ということで帰国を考え始めたと言います。
NPB12球団に履歴書を送り、日本ハムに入団。初仕事は当時注目のドラフト1位・斎藤佑樹投手のトレーニングでした。そして13年に阪神へと移籍。ここで新人として入団してきた藤浪投手と出会ったのです。当時の藤浪投手について鎌田氏は「83キロとほっそりだったけど身体能力は誰が見てもわかった」と振り返ります。さらに「現在の体重は105キロぐらい。筋肉がついて良かった」と。
鎌田氏は18年からオリックスに移籍。昨年も同職に就いていましたが、藤浪投手からはポスティングが報道される前日に連絡がありました。奥様の後押しもあって、藤浪投手に「向こうでのサポートが必要ならいけますよ」と伝えると「お願いします」と米国帯同を頼まれたそうです。とはいえ「フジ(藤浪)は自分の力でチームメートとコミュニケーションを取らなければいけないので、あらゆる場面で通訳するつもりはありません。彼には意欲があるし、あんなに素晴らしい英語のスピーチもできた。僕の英語を聞いて色々吸収しているので上手く馴染むと思いますよ」
藤浪投手のサポートはもちろん、自身も英語能力や通訳能力を伸ばして、アメリカの最新野球情報や指導法を学びたいと考えているそう。いずれは、その知識や知恵を日本に持ち帰ってNPBに貢献するという目標を立てています。アスレチックスは今季開幕戦で、大谷翔平選手のエンゼルスと対戦予定。その際の最優先は、大谷選手よりも通訳の水原一平氏に会うことのようで「一平さんから色々学びたいことがある」という理由だとか。夢のメジャー挑戦を現実とした藤浪投手同様、鎌田氏も向上心のかたまりのようなナイスガイでした。頑張れフジ!頑張れKamada!
◆トレバー・レイチュラ 1975年6月生まれ。カナダ・マニトバ州出身。関西の大学で英語講師を務める。1998年に初来日、沖縄に11年在住、北海道に1年在住した。兵庫には2011年から在住。阪神ファンが高じて、英語サイト「Hanshin Tigers English News」で阪神情報を配信中。