それが王貞治の方針
【2月9日】
タイガースが宜野座で21年の初戦を飾ったちょうど同じころ、実は、金本知憲が那覇空港にいた。
「今から帰るところだよ」
佐藤輝明の〈プロ1号〉を見ることなく前監督は機上の人に…。
別件でも何でも2月に沖縄へ来れば、そりゃ気になっていたのでは??金本は自身と同じ左のスラッガーをどう見るのか。あれこれ技術論も聞いてみたくなる。だけど、まだ一度も佐藤の映像を「見たことがない」という。じゃ、生で見たそのときに是非、背番号8の将来性をうかがってみたい。
佐藤は柳田悠岐になれるか-。
思えば、ひと月ほど前、2軍監督の平田勝男が鳴尾浜でその名を出して佐藤を絶賛していた。
「豪快なティーバッティングだよな。ソフトバンク柳田のようなスイングは気持ちいいね」
初見で最高級の評価だった。
それ以前も、佐藤のスイングを「ギータ級」と称す声はメディアで散見されていたけれど、身近な指導者が生々しくそう語ると、説得力が増すというもの。
初めて経験するプロ野球のキャンプ、初めての対外試合でのっけからこんなものを見せられれば、冷静を装うオッサン記者も貪欲になる。テーマはこうあるべきだ。 佐藤がギータ級になるには?
僕は柳田と面識がない。直接取材できる間柄ではないので、どうにか〈間接取材〉でもせねば…そう思っていたら、とっておきの知人が宜野座にいるじゃないか。
「ご無沙汰してます!」
広島カープスコアラー岩本貴裕である。
おお、がんちゃん!
昔から親しみを込めてそう呼ばせてもらっているが、岩本といえば、08年度ドラフトでカープから1位指名された大物であり、それこそ、金本の背番号10を引き継いだスラッガーとしても有名だ。
19年シーズンをもって惜しまれつつ引退した「がんちゃん」は20年にスコアラーに転身。今年からは007として阪神を追う。
そして何より忘れちゃいけないのが、彼のキャリアである。
岩本は柳田と同じ広島商業出身で2学年離れた先輩後輩の間柄。中学出たての細かった1年生・柳田を知る希少な存在なのだ。
そんな岩本に確かめてみた。
柳田ってホークスでどんな育て方をされたか聞いたことある?
「ありますよ。ソフトバンクに入って、コーチから何にも言われなかったそうです。それが王さんの方針だったようですね。『柳田を触るな』と…。王さんが『とにかく振らせておけばいい』とだけ仰ったという話は聞きました」
ホークスが広島経済大の柳田をドラフト2位指名した経緯が、王貞治会長の鶴の一声だったことは有名。世界の王は当初「放任」を指示し、柳田はあれだけのスラッガーに成長を遂げたというのだ。
そういえば、金本もルーキー時代の高山俊に言ってたっけ。「あいつには何も言わない」。素のままで一級品は、放っておくのが最良の指導ってことなのか。=敬称略=