80歳からの世界記録

 【2月12日】

 特に技術的なものを見たかったわけでも、練習内容に興味があったわけでもない。ただただ顔を見たかったのでレンタカーを走らせた。宜野座を離れて小一時間…読谷村の長閑な球場で再会できた。

 「風さん、どうしたんすか?きょう、タイガース練習休み?」

 中日ドラゴンズの2軍キャンプ地で43歳はイキイキしていた。

 元気そうで…。そう声を掛けると、福留孝介は若々しく頷いた。

 強風が右から左へ流れる中、打球捕でライトのポジションにつき同じく2軍スタートのセンター大島洋平と声を掛け合う。

 「今の(打球)俺いけるわ」

 右中間の新コンビネーションで息を合わせながら、互いの守備範囲を確かめ合う。08年からメジャー挑戦した福留と、09年度ドラフトで中日に入団した大島が初めてドラゴンズブルーで混じり合う読谷キャンプは、それだけでオッサン記者にとって見応えがあった。

 大島といえば14年に福留が持っていたシーズン186安打の球団最多記録に並んだヒットメーカーである。プロ23年目のレジェンドが〈周囲の予想〉を覆せば、このコンビネーションを甲子園の深い外野でも見られる。そんなふうに想像しながら、外野の芝生席から青い背番号9と8を眺めた。

 背番号8といえば…その前任者として、また野球人として、やはり、タテジマのそれが気になるのかもしれない。

 「佐藤くんはどうですか?」

 青い背番号9は柔和な眼差しで僕に聞く。紅白戦や対外試合で放たれた佐藤輝明のインパクトはきっと色んな媒体で見聞きする。僕の主観を伝えると、「良かった」と言わんばかり、また微笑む。

 43歳と21歳。両者が阪神で交わることはなかったけれど、同じ外野手としてプロ野球の土俵に立つ以上、加齢によるネガティブな下馬評に逆らってみせる。古巣を見返す気概は失っていないはずだ。

 「体は元気ですからね」

 福留はそう語っていた。キャンプ前に沖縄で鳥谷敬、大和とともに自主トレを行った彼はまた若返ったように見える。

 若返るといえば、そうそう。沖縄で毎朝読む琉球新報に、水泳の最高齢世界記録保持者のびっくりエピソードが載っていた。

 先月106歳で亡くなった長岡三重子〈選手〉は、膝痛を治すため80歳で水泳を始めたという。1年練習して25メートル泳げるようになり88歳で出場した世界マスターズ大会で銅メダル。90歳で金メダル。100歳にして1500メートル完泳は世界初の快挙だったそうだ。

 新庄剛志が宜野座へやってきた日に思う。「長岡伝説」を読めば40代=老化の固定観念はもう捨てたほうがいいのかもしれない。

 福留の同級生で中日コーチの荒木雅博はかつて僕に言っていた。

 「彼にはトリプル1000を達成して欲しいんですよ。過去に10人くらいしかいなかったはず」

 打点1057、得点1023、四球982。あと18四球で達成か…今シーズンの密かな楽しみにしておきたい。=敬称略=

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