恐怖や不安を与える言葉
【2月23日】
旧知のベイスターズ関係者から新監督の三浦大輔はよく嘉手納へ足を運ぶと聞く。行き先はもちろん米軍基地ではなく、ファームのキャンプベース。目的はルーキーや若い選手の視察だという。
三浦は番記者を通じて大方ポジティブな言葉を残し、嘉手納町野球場をあとにするらしい。
先日、僕が国頭村(くにがみそん)へ斎藤佑樹を訪ねたとき、ファイターズ監督の栗山英樹がファームの視察に来ていた。
「ビックリしましたよ。本当に良かった。どうしちゃったんだよ佑樹」
これがそのとき栗山が報道陣に発したコメント。多少のリップサービスも込みなのか、それは分からないけれど、少なくとも、この言葉を伝え聞いたリハビリ中の佑ちゃんは意気に感じただろうし、体を突き動かされたに違いない。
翻って、矢野燿大はどうか。おそらく、この時期だって自分の目でファームを見たい。2軍首脳とのコミュニケーションが不通なわけではなく、どんな形であれ、若手に「声を掛ける」「伝える」という意味でもそうしたいのでは?と想像する。
1、2軍とも同県でキャンプを行う球団は多いけれど、沖縄-高知で分離キャンプを行う阪神でそれは叶わない。今更その不都合を嘆いても仕方ないので、矢野はときにメディアを通じ、自身の気持ちを選手に伝える。その言葉は決まって「ポジティブ」である。
「俺は監督に気に掛けてもらっている」-沖縄、安芸にかかわらず、若手はそんなふうに感じるだろうし、その言葉ひとつで、心も体も活気づけられる。
「ネガティブな言葉って、人に恐怖や不安をずっと与え続けるんですよ」
「ポジティブな言葉がどれだけ人を助けるか…。いい時も悪い時も、コーチがその選手に対して同じ態度で接することがどれだけ大事なことか…」
これはTBS系「林先生の初耳学」で、ダルビッシュ有が林修のメンタル論に答えたもの。
この番組を見て驚いた。「メンタルの鬼」のようなメジャーリーガーでも、指導者のひと言で負った心のダメージを引きずるもの。ダルビッシュでそうならば、日本でまだ実績のない若い選手は…推して知るべしだろう。
今クールを振り返り、矢野の発言で最も印象的だったのは、新人石井大智へ向けたものである。
「ルーキーとして見てないよ」
「今、右の中継ぎ候補で一番いいんじゃないの?」
ドラフト8位入団の右腕にとって、この上ないポジティブなエールだと思う。
矢野はきっと昨年の矢野とは違う-先月、当欄でそう書いた。
沖縄で矢野の言動を見聞きすれば、哲学の土台はこれまでと不変だろうけど、今年はチームの浮沈に関わらず、それを貫き通すように感じる。なぜって、ポジティブな言葉が選手に変化をもたらす有効な〈戦術〉であることを矢野はよく知っているから。=敬称略=