最年長エンターテイナー

 朝一番に宜野座のスタンドに腰掛けた。グラウンドを見渡せば、雨上がりの黒土に敷かれた規格外のシート。阪神園芸のスタッフが空を見上げている。球場入りした選手たちはドームへ向かい…。

 夜通しの雨を含んだ内外野だけど、きっといつものように何とかする。それが「阪神園芸力」。ネット裏にひとり座る僕を見つけた神(かみ)園芸の最年長、リーダーの金沢健児が笑ったように見えた。昼までに整えるわ…とでも言いたげに。

 1967年生まれ。今年54歳になる金沢とは付き合いが長い。阪神園芸甲子園施設部長…肩書は少々堅苦しいけれど、中身はとてもフランクな方。会えば立ち止まって何かと話をする。朝ドラのこと、ゴルフのこと。よもやまトークを沢山するのだけど、話題が仕事になれば、口元はプロフェッショナルのそれに切り替わる。全身バイタリティ溢れる…そんな形容がしっくりくるアラフィフ。「生涯現役」を感じさせる名職人だ。

 金沢と同じ1967年生まれといえば、この日、2月26日に誕生日を迎えたキングカズもそうだ。29年目のJリーグ開幕を祝うメモリアルに54歳のバースデー。実に自身36年目のシーズンに史上最年長ゴールを目指したカズは、コロナ禍におけるプロスポーツの意義をこんなふうに語っていた。

 「サッカーもエンターテインメントのひとつ。こういうときだからこそ、エンターテインメントで明るい日差しを与えられたらいいなと思う」

 以前も書いたように、僕は三浦知良を取材したくてスポーツ記者を目指した。憧れの人がまさか50歳を超えて現役を続けるとは思わなかったけれど、キングは「54歳になった感想は特にない。年齢に関しては今更言うことはない」と語る。仰る通りだ。「俺は客寄せパンダでいい。だってクマはパンダになれないんだから」と、かつて雑誌のインタビューでプライドをのぞかせていた。10代とも同じフィールドに立つ以上、争うのはゴールへ向かうパフォーマンスのクオリティーのみ。その覚悟と自信がなければ、エンターテイナーの資格を失うのがこの世界だ。

 「早生まれのカズさんは僕より学年は一つ上だけどね」。宜野座で僕にそう語る金沢も、観客を楽しませるという意味ではエンターテイナーといえる。さすがの「さばき」でぬかるんでいたグラウンドを昼前にはしっかり整えた。

 そして、その整えられたフィールドでサバイバルの準備を整えていたのが、糸井嘉男だ。

 きょうの中日戦でいよいよ左翼に就き、守備を解禁する。今年40歳を迎える糸井は、若返った今の阪神においてエンターテイナーが最も板につく男だと思う。先日対談した新庄剛志から「引退するくらいの気持ちでやれ」と激励され心に炎が灯ったはず。中日の先発大野雄大とは通算打率・435と好相性。沖縄で近大の後輩に主役を譲り続けるチーム最年長には、トシを忘れさせるシーズンにしてもらいたい。=敬称略=

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