恐怖が悠輔を強くする
【10月6日】
小栗旬の舞台見たさに「彩の国さいたま芸術劇場」へ足を運んだことがある。09年のことだ。蜷川幸雄の傑作『ムサシ』に佐々木小次郎役で出演した小栗はあのとき26歳。底知れぬ役者魂を感じた。
なぜ小栗の舞台を思い出したかといえば、今週放送の「日曜日の初耳学」(TBS系)で林修-小栗の対談をたまたま見たからだ。
小学生で芸能界に入り、順調にスターダムをのし上がったように見える小栗だけど、実は18歳で引退を覚悟したという。エキストラなど下積み時代は「仕事が面白くなくて、辞めようかなと思っていて。(自分に)合わない世界なんじゃないかと…」。番組でそんな過去の言葉を紹介していた。
それでも、なにくそと奮起し、小栗の名を全国区に広めたドラマ『花より男子』に出会ったことで
苦しんだ日々が浮かばれたのだ。
「あの頃(エキストラ時代)の怖さとかトラウマみたいなものは残っています。その恐怖に立ち戻ることができる自分だから、いろんなことを考えられるのかなと思うところはあります。恐怖があれば強くなれるとは思います」
これは、小栗が24歳で密着されたドキュメンタリー「情熱大陸」(毎日放送)での発言である。
多忙を極め、売れっ子になってからも、自分が必要とされない以上の恐怖はない-そんな思いが役者道を邁進する原動力になった。 だから、僕が埼玉の舞台で見た26歳の小栗の迫力は、今から思えば、いつでも恐怖心に回帰できる強さを携えたからこそ-だったのかもしれない。
そんな小栗は阪神ファン…そう昔からよく聞く。だから、今「4番=主演」を担う、26歳の大山悠輔をどんなふうに見ているのか聞いてみたくなるのだ。
恐怖があれば強くなれる-。
僕は、大山悠輔こそがまさにそうだと感じている。
もう、やめようかな。自分に合わないんじゃないか-。いや、言葉は分からないし、もちろん悠輔は口にしないけれど、弱音を吐きたくなる夜だってあるんじゃないか。勝手に想像している。
4番を外れ、スタメンを外れ、下位を打ち、結果如何で容赦ない罵声も浴びる。「宿命」と片付けられたりするけれど、血の通う、20代の若者だから深い傷も負う。
勝負の1週間、悠輔はハマの初戦で本塁打を含む3安打2打点。そしてこの夜は五回、七回の絶好機で凡退したけれど、ロハスJr.の先制弾をお膳立て。四回先頭で口火を切った千金打の価値を心に留めておきたい。
1大山=15
1岡本=15
3鈴木誠=12
4村上=10
5ビシエド=10
6オースティン=8
これは今季、セ6球団の4番が残した決勝打の数である。
阪神の4番は大山。この線はずっと貫いてほしいと僕は願う。恐怖を知るから強くなれる。セの4番で最もハマスタに強い男が、きょう6連勝を決める。=敬称略=