【１０月２６日】

　新庄剛志がＭＢＳの特番に於いて、猛虎について指導者目線で語っていたことを思い出した。

　「阪神を優勝させるの、簡単なのにね…。メンタルだけ」

　言うてくれるやんか。

　シンジョーらしい物言いだなぁなんて思いながら、じゃ、やってみてよ！とも言いたくなったり。

　新庄氏が日本ハム監督に内定－一部そんな報道もあるなかで、かつての「虎のプリンス」が語った阪神優勝の条件とは、「ファンを味方につけること」だという。

　どんなふうに味方につけるのか…新庄監督のお手並み拝見といきたいところだけど、どうやら、それは北の大地で…となるのか。しかし、札幌のファンと阪神ファンでは気質も違うだろうし…なんて妄想しながら甲子園の上空を見上げた夜である。

　今シーズンの矢野燿大はファンを味方につけられただろうか。

　「ファンとともに」とうたうのはカンタンだけど、その〈公約〉を果たせたかどうかは、ぶっちゃけ検証しづらいものだ。

　糸原健斗が「甲子園の決勝や」とナインを鼓舞して臨んだ最終戦は〈準優勝〉に終わった。勝たなきゃいけない…いや、勝たなきゃ終わってしまうゲームを矢野がどうマネジメントするのか。勝つこと…唯一この目標を成すために、後悔なきよう、どう戦うのか。注目しながら試合を追った。

　矢野は青柳晃洋をわずか２イニングで代えた。及川雅貴を３イニング目まで引っ張る継投を見せたけれど、馬場皐輔が２失点。アルカンタラが０に抑えるも、５番手の岩崎優も失点し、計４失点。試合が決してしまった。

　甲子園のゲーム終了を待って、横浜スタジアムで高津臣吾が感涙のゴールテープを切った。

　「野球は点をとられなければ負けないんだよ」

　矢野、そして高津の恩師、野村克也がよくそう話していたことを思い出す。矢野は先発陣をスクランブル待機させることはなかったが、一方の高津は先発の高橋奎二をスタンバイさせ、４番手で登板したその高橋が結果的に勝ち投手になった。どちらがどうと書くつもりはないし、阪神の台所事情も分かる。それだけが勝敗を分けたとも思わないが、虎と燕、両軍のファンはどう感じただろうか。

　そもそも、この１試合の敗戦で優勝を逸したという考え方を矢野はしていないと思う。振り返ればＶ逸の要因はひとつではないし、あの試合さえ…そんな悔恨の念は数えればいくつか浮かぶ。

　最後はキャプテン大山悠輔が倒れ、阪神は終戦した。わずかに残る優勝の可能性が潰えた瞬間、甲子園は静まりかえり、悠輔の目は赤らんでいるように映った。

　後悔さえなければ勝敗は…そんな世界でないことを矢野は知る。やるべきことをすべてやった結果といえど、セで一番勝ったといえど、今ここに負けた現実がある。２位になった要因がある。来たるべき日本一へ続く道をどう歩くのか。この悔恨をＣＳで勝って省みることができれば…。＝敬称略＝