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秋は無観客キャンプ

 【10月27日】

 藤川俊介と会った。最近ご近所になった彼と休日にばったり…。「落ち着いたらご飯いきましょうよ」。くったくのない笑顔で俊介がそう言うので「ほんまにな。行きたいな」と手を振って別れた。

 「記者って勝ち負けがないですよね」。一緒にテーブルを囲んだ俊介から聞かれたことがある。引退を表明した彼との思い出を振り返れば、時ははっきり記憶していないけれど、そんな問い掛けがあったことはよく覚えている。

 もちろん、俊介に他意はない。自分の知らない業界を想像しながら、問うてきたのだ。

 あのとき、僕はこう答えた。

 勝ち負けがないと思って過ごせる記者は幸せかもしれん…と。

 すると彼は「どういう意味ですか」と言うので、ひとつの考え方としてマジメに…。

 他の社に負けたくないと思って仕事をするかどうか。それは記者個々の心の持ち様で、与えられたままの原稿を書いて日々を過ごしても、他社にない企画、他社の知らないニュースを一度も書かなくても、会社をクビになることはない。だから、別にそれでいいじゃんと思える記者は、ある意味平和な記者人生かも。自分の場合は、後輩の中でも、他社に負けたくない、記者にも勝敗があるんだと思い頑張っている記者を応援するかな…そんなふうに伝えると、俊介は「へぇ、そうなんですね」と真顔でうなづいていた。

 この時期は選手の「引退」がニュースになる。聞こえは美しいけれど、そのほとんどは「構想外」と同義だ。レジェンド金本知憲でさえ、球団から最大限の敬意はあったにせよ、最後は「そろそろどうだ」と、当時球団社長の南信男から肩を叩かれ決断したし、近年では、鳥谷敬、能見篤史、福留孝介もそうだった。

 やれるか、やれないか。勝てるか、そうでないか。毎年しかるべき第三者から評価を下されるのがプロ野球。そんな〈勝敗〉のある世界が彼らの現実であり、生き残りをかけ、グラウンドに立つため命を削る選手だからこそ、ファンからリスペクトされる。

 阪神がVを逸し、方々で様々な感情が溢れる。選手の悔しさとファンの悔しさを並列に語るなど選手に失礼だという人がいるならばその物言いこそが想像力の欠如であり、選手にもファンにも失礼。悔しさの類、勝敗の受け取り方は個々で異なる。人生をかけ、命を全うするまで懸命に自身を応援したファンを知る選手もいる。俊介からもファンを思う旨をよく聞いたし、彼の広陵のセンパイ金本にいたっては、引退会見でこみ上げたただ一つの理由を「ファンを思ったから」と語っていた。

 ポストシーズンとともにストーブリーグが始まる。取材の限り、球団はあらゆる可能性を探り、来季へ向け動いている。補強もさることながら、新芽の育成、実りの秋にする準備を整える。今秋は安芸キャンプを行わない。ポストシーズン後は、無観客の鳴尾浜&甲子園キャンプで次代の主役を狙いしのぎを削る。=敬称略=

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