人に恵まれました
【10月28日】
オリックス優勝から一夜明け、能見篤史に祝福のLINEを送った。きっとお祝いが山ほど届き、ご家族で嬉しい悲鳴をあげている頃かなと思いながら、気長に返事を待とうと思っていたら…
そこは律儀で良心の男である。
「色々、学ばせていただきました…」
間もなく、そんな文頭でお礼のLINEを返してくれた。
ひと月ほど前、プライベートでお世話になったことがあって、お礼の連絡をさせてもらった。そのときも、律儀で、丁寧で…。
能見篤史という男は「プロ野球選手である前に…」を地でいく人間であり、こちらが人として学ばせてもらうことの多い、希少なアスリートである。ポーカーフェースでスマートな風貌に似つかわしくない茶目っ気やイタズラ心は40歳を過ぎた今も昔と変わらない魅力だけど、彼が新天地でコーチ兼任投手として成功できたのは、類い希な技術や、それを落とし込む理論、経験値はもちろんのことだけど、突きつめれば、その「人柄」ゆえんではないかと思う。
能見からのLINEの返信にこうも書いてあった。
「いい人たちに恵まれました」
結局はこれが全てなんだろうな…読んでそう感じた。
彼が初めてオリックスの施設を訪れた一年前のこと。自宅への帰り道にくれた電話で、こんなことを言っていた。
「皆さん、すごく親切なんですよ。めちゃくちゃ助かります」
そりゃ、実績十分のベテランが
「はじめまして」と来れば、選手もスタッフも温かく迎えてくれるのでは?なんて、へそ曲がりなことを言ってごめん…。ファーストインプレッションが裏切られることなく、シーズンを通して「恵まれた」のは、きっとそう…。
MVPが確実と目されるエース山本由伸が能見の助言で変わっていく、ブルペンを含めた投手グループの絆、信頼関係が日に日に深まる、その景色をオリックス首脳が教えてくれたこともある。
「(能見に対するチーム全体からの)信頼は厚かったよ。投手陣に対して本当によく話をしてくれていたしね…」
これは、昨オフ広島カープから中嶋バファローズに加わったヘッドコーチ水本勝己(みずもと・かつみ)の証言の一端である。
その景色を想像すれば、桃李成蹊(とうりせいけい)という言葉が思いつくけれど、能見の周りに選手が集まり、だからこそ、スタッフ、そして指導者も信頼を寄せる好循環が生まれる。
能見は言う。
「コーチ兼任という立場でもあるので…。能力をもった選手たちが多かったですし(その能力を)試合で出してくれたらいいなと思っていたので、各選手が持ち味を出してくれたことが凄く嬉しかったんです」
人に恵まれる。それは周囲が能見に恵んだのではなく、能見が恵まれる人…だったからである。
優勝おめでとう。来月、必ず球場で会って伝えるよ。=敬称略=