べからず集の説得力

 【11月4日】

 サッカーに関心のない方ごめんなさい。きょう当欄が食いつくのは、「新庄劇場」ではなく、前日J1連覇を決めた川崎フロンターレ。虎党読者には少々辛抱いただいて、とりとめのない話を…。

 前年王者川崎にとって真価が問われるシーズンだった。大黒柱であり精神的支柱だった中村憲剛が昨シーズン限りで引退し、三苫薫(みとま・かおる)、田中碧(たなか・あお)といった代表組が東京五輪後、欧州へ移籍。いわば王将と飛車角が抜けたチーム…さすがに今年は…そう思っていたら、なんのなんの。2位横浜Mに勝ち点差1まで迫られた夏場、15日間で5試合の過密日程(プロ野球なら12連戦くらいの感覚だろうか)

を全勝で乗り切った。

 これで川崎は17年からの5シーズンで4度のJ1制覇である。特筆すべきは、歴代最少となる1試合平均0・65失点という鉄壁のディフェンス力。僕と同世代の監督

鬼木達(おにき・とおる)が守備を見直し、築き上げた横綱サッカーは、とにかく失点しない。敵軍から見れば、ゴールに鍵をかけられるほど絶望的な気分にさせられることはない。

 「打つことは10割を目指すことはできないけれど、守ることは10割を目指せる」

 岡田彰布のこの言葉がそのままサッカーにあてはまるとは思わないけれど、個人的には「得点しなければ勝てない」考え方よりも、「失点しなければ負けない」考え方が好きであり、また「確率のスポーツ」においては、特に後者が有効であると、ずっと信じる。

 さて、朝起きて日経新聞をめくると、コラム「悠々球論」で権藤博が監督業について綴っていた。

 「(私には)こうすれば勝てるというものはなかったけれど、監督としてこれだけはやっちゃいけないという『べからず集』は持っていた。投手のプライドを傷つけるような交代や、選手をとっかえひっかえするようなことはNG」

 横浜監督時代は、投手出身らしくバッテリーを含めたディフェンス面の安定こそ、権藤の「こうすれば勝てる」理念という認識だったけれど、日本一に輝いた98年はマシンガン打線が機能し大魔神も君臨…まぁ、いずれにしても、勝てば官軍。結果が伴った指揮官なら何を言っても皆が頷くものだ。

 川崎は日本サッカーの官軍だが鬼木は、主力の移籍、故障者の続出でV逸の暗雲がたちこめた時期を振り返り、こう語っていた。

 「勢いが足りなくなってもここを耐えれば次またみんなが伸びてくると。できるだけプレッシャーを与え過ぎないような形で進めました。焦らず焦らずと自分にも言い聞かせて…。選手を信じていれば、必ずいい結果が生まれる。選手を信じることが一番大切だと思いやってきました」

 かつての川崎は2位ばかりでシルバーコレクターと揶揄されたけれど、勝てば、その言葉に説得力が帯びる。用兵、タクト、戦術…新庄節だって今は説得力がない。虎のそれを「さぁ、読んで」と書ける日を待っている。=敬称略=

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