次代エースに託すもの
【11月6日】
「大エース菅野投手と次代を担うエースの高橋投手の投げ合いが面白い」-NHK(BS)解説の藤川球児はそんな表現で両投手を称えた。雪辱を期すCS、その開幕戦はココを切り口に書きたい。
巨人軍の大エースが阪神次代のエースに投げ勝った第1ラウンドである。「エースの背中をチーム全体が見ている」。「どんな状況であれエースは勝たないといけない」。巨人の投手チーフコーチ宮本和知が戦前「菅野次第」と語っていたようだけど、その期待に応える、敵ながらあっぱれのマウンドだった…と書くしかない。
「皆さんは『エース』と聞いてどんなことをイメージしますか?僕の頭に真っ先に浮かぶのは“背負える選手”です。勝敗もプレッシャーも、チームのすべてを背負えるピッチャーこそがエースなのではないでしょうか。それは僕の『理想とするエース像』『あるべき姿』と言い換えることができるかもしれません」
これは菅野が昨年「週刊ベースボール」に寄せたコラムの一節。「エースとは」をテーマに、そんなことを綴っていた。
正直書けば、僕は巨人のモチベーションに疑問符をつけていた。2位と大差の3位…滑り込みでCSに届いた昨年の王者はもう来季へかじを切っているだろう。「3位から頂へ」の号令では、巨人軍をひとつにする目標としては物足りない。そんな侮りである。
それがどうだ。先制の口火は、4番を担う丸佳浩の一塁へのヘッドスライディングだった。さらに5番のZ・ウィーラーが来日初となる犠打で得点圏へ進め、吉川尚輝の…嗚呼、筆は乗らない。得点を重ねる度に飛び出すGのガッツポーズ。何なんだ巨人軍。そう思いながらゲームを追って、分かった。
そうか。原巨人を一つにするモチベーションはほかにもあった。
菅野の背中である。
珍しいシーンがあった。三回1死。菅野が速球で坂本誠志郎を三振に斬ってとると、捕手の小林誠司がベンチへ引き揚げる…。「2アウト!まだ、2アウト!」。アウトカウントを間違えた小林を菅野が呼び戻した。本気の大エースで負けるわけにはいかない。我を忘れるほど正妻は舞い上がっていた。僕の目にはそう映った。宮本コーチが言うように、巨人は菅野の心次第だった。そして、そのエースがシーズンの雪辱に燃えた甲子園で巨人は一枚岩になった。
僕はツイッターで虎党に聞いてみた。現在を含め、この20年間で「阪神のエース」とは誰か?
プレーボール前から2時間で100を超えるリプライがあり、最多「投票」は井川慶。そしてメッセンジャーが続いた。藤川球児が高橋遥人を「次代の」エースと語ったように、ツイートの返答を読めば、今の阪神に大エースは不在である。しかし、もちろん悲観は要らない。遥人にエース襲名の日は必ず来る。中盤まで菅野と渡り合った投球にそう書いてある。遥人の背中がチームのモチベーションになる日は必ず…。=敬称略=