「普通」の応酬が面白い
【10月18日】
セ・リーグ統括の杵渕和秀が三塁ベンチでカープ監督の新井貴浩と何やら話し込んでいた。試合前である。時間にして5分ほどだろうか。新井は真剣な面持ちで杵渕の言葉にうなずいていた。
「込み入った話はしてないですよ。普通に激励という感じかな」
新井に聞けば、そう言った。これも、いつもの光景ではないポストシーズンならではだろうか。
杵渕といえば、今シーズン岡田彰布との絡みがあった。阪神は8月のDeNA戦で熊谷敬宥の盗塁を巡る判定を不服とし、NPBに意見書を提出。杵渕が即座に横浜スタジアムを訪れ、岡田らに回答した…あれだ。「不利益を取り除く審判の判断、判定も必要ではないか」「審判の判断基準に手を付ける」-。そんな迅速な回答は良きことだけど、対応が早過ぎない?なんて、驚いたりもした。
僕は杵渕という人をけっこう昔から知っていた。かつてヴェルディ川崎のチームマネジャーを経験した異例の経歴の持ち主である。当時のヴェルディといえば三浦カズやラモス、北澤豪らタレントの宝庫だった。学生時代から野球一色で育った杵渕にとって別畑のシゴトは苦心の連続…野球界の「普通」が通じない苦労も味わった…そんな話を聞いたことがある。
「普通にやるよ」
CSファイナルステージを前に岡田彰布はそう語っていたが、そもそも、何をもって「普通」とするかは、当事者の視点、モノサシによって異なる。
奇策か?そう思わせたカープの用兵があった。新井は8番ファーストで韮澤雄也をスタメン起用した。データを見れば、なるほど、村上頌樹との相性がいい。ウエスタン・リーグの通算打率は・500。昨季も同9打数5安打と打ちまくった。しかし、それはあくまで覚醒前の村上。韮澤は今季1軍出場(45試合)のほとんどが一塁の守備固めで打率は・140。この大一番で抜擢するとは思わなかったし、本人にとってもちょっと荷が重かったのでは?
「奇策?いや、韮澤はファームで9月に調子良かったですし、みんなでやるぞ!という中で、もともと上げたかった選手ですから」
ヘッドコーチ藤井彰人は試合後明かした。気負いの抜擢ではなく「普通」の起用だった、と。
五回、その韮澤へ飛んだ村上の初球ヒッティングが勝負の綾だったか。そもそも代打か?と思わせた局面で、岡田は「普通に」打席に立たせ、「普通に」打てのサインを送っていた。
そうそう。杵渕のサッカー歴といえば、この夜、女子プロサッカーリーグINAC神戸の代表取締役社長・安本卓史が観戦に来ていた。岡田と長らく親交がある安本と僕は初対面だったが、気さくに話をしてもらった。「記事読ませてもらってますよ。また野球とサッカーを絡めて書いていただければ…。きょうはおもしろい試合になりそうですね」。安本の予想は当たった。岡田の「普通」について、別畑の解釈を聞いてみるのも面白そうだ。=敬称略=
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