「痛い目を見る」大切さ

 【10月19日】

 菊池涼介と話をした。試合前のことだ。旧知の彼と久々にじっくり野球談議すれば、聞きたいことがどんどん出てくる。ルーキー時代のバッティングを皮切りに、あらためて野球観を問えば…。

 「野球は守備ですよ」

 日本一の名手はそう言った。ほかでもない。菊池からその言葉を聞くと、痺(しび)れる。

 「野球は守りよ」 

 岡田彰布が掲げたこの標榜で阪神は変わった。堅守を合言葉に18年ぶりの美酒に酔ったわけだが、言うは易し。かんたんにディフェンスの質が高まれば苦労しない。

 試合後、サヨナラ打の木浪聖也にあえて守りの話を聞いてみた。

 この夜の最初の守備機会、二回の上本崇司の遊ゴロは厄介なバウンドに見えた。

 「そうですね。思ったよりも衝突してしまったので…。でも、あそこで粘れてアウトにできたので良かったです。守備から(いいリズムで)入れているというのが、打撃に繋がっていると思います」

 なるほど、やはり野球は守りである。そこで話を冒頭に戻すけれど、では、守備力を伸ばすには何が必要か?シンプルな問いかけに10年連続ゴールデン・グラブ賞の菊池はこんなふうに答えた。

 「痛い目を見ることです。例えば日本代表の試合とか、絶対に負けられない試合を自分のミスで落としたりすれば、変わりますよ」

 ここで菊池との会話をさらに深掘りしたいところだけど、猛虎サイドのスペースがなくなるので、この件はまた近いうちに…。

 さて、阪神がその名手にいきなり痛打をくらったファイナル第2戦である。初回、伊藤将司の立ち上がり。先頭の菊池に長打でチャンスメークされ、小園海斗に先制打を許した。女房役の坂本誠志郎が「あいつはいつも全然緊張しない」と評する伊藤将だけど、記者席から見る限り平常とは違った。リズム、テンポ…やはり大舞台。緊張しないわけがないか。

 緊張といえば…菊池の背後、ライト末包昇大のそれを思う。カープ2年目の大器が二回にシェルドン・ノイジーの打球を後逸し、同点に。前夜は4年目の韮澤雄也が村上頌樹の打球を捕り切れず…。「痛い目を見ること」で守備の意識がガラッと変わる。彼ら若鯉にとって、このファイナルがかけがえのない舞台になるに違いない。

 野球は守り。それを邪魔する正体が「緊張」であれば大一番で試されるものは果てしなく大きい。

 「今までで一番緊張した試合?優勝決定の9・14です。試合前にあれだけ緊張するとは自分でも思わなかったですね…」。この夜、記者席で隣に座ったサンテレビアナウンサー湯浅明彦に聞けばそう言う。聴く者にそれを感じさせないあたり、さすが大黒柱だが…。

 あらためて守備の要、木浪に確かめてみた。このCS、打球を一つさばくまでやはり硬かったか?

 「もちろんです。初戦は特にいつも以上に緊張していました」

 2戦無失策の虎が日本シリーズ進出に王手。最後も守り勝って檜舞台に立ちたい。=敬称略=

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