「高校野球の様に」とは
【10月21日】
新井貴浩の奥様が甲子園に来ていた。CSファイナル第2戦のことだ。息子さんとその友人も一緒で、彼らから溌剌と「こんにちは!」と挨拶いただいたので、こちらも負けじと元気に返した。
阪神無傷の3連勝で幕を閉じた今シリーズ。振り返れば、新井は戦前こんなことを話していた。
「甲子園では、今年のスローガンであります『ガムシャラ』に、カープの全員野球で、高校球児のように戦ってきたいと思います」
この発言に対し、阪神監督の岡田彰布は「高校野球する言うからな。金属バット持ってくるんちゃう?おーん。金属バットはあかんで」と、ジョーク交じりに応戦したわけだけど、このやりとりを聞いてふと思ったことがある。
カープ球団は新井を新しい監督に迎えた昨秋、23年のチームスローガンを「がががががむしゃら」に決めたと発表した。
「がむしゃらの最上級だと思ってもらえたらと思います。私自身がこのキャッチフレーズにあったように汗と泥と涙にまみれて20年間も現役をやらせていただいたので、選手たちと、このキャッチフレーズを胸に戦っていきたいなと思います」
新井はそんなふうに説明したわけだが、僕はそのとき、彼の4年間の評論家生活を思い起こした。
いずれまた赤いユニホームを着なければならない。そんな使命感を頭のどこか持ち続けていた新井である。限られた時間を、評論家業はもちろんだけど、「父親」としても大切に過ごしていた。
新井家の二人のご子息はともに野球をやっている。長男の高校野球では、新井父は他の親と変わらないスタイル…保護者指定のチームキャップ、シャツを身にまとってスタンドから声援を送り、手をたたいていた。春も、夏も、一度負ければ次のない戦いを目の当たりに、プロ野球選手であれ本来持つべき大切なものを思い出したに違いない。
「高校野球のように戦ってきたい」-。これが宣言通りなのか。甲子園の3試合をずっと、そこに注目して見させてもらった。
例えば一塁への全力疾走。阪神では大山悠輔が先頭に立ってやり続けているが、カープでは菊池涼介がその先頭にいることが一目瞭然である。ケガしたらいけない?いや、大山や菊池はだからこそ入念な準備を怠らない。彼らの練習を見ていれば分かる。更にいえば例えば凡打した後だ。左中間へのフライに倒れる。二塁まで全力で駆ける。そこまでは普通だけど、カープの支柱、菊池はそこから走ってベンチへ戻る。「ちんたら」が一切ない。試合のスピードアップ?時短を考えている?いや、そういう類いとも違う、集中力。新井が標榜する「がむしゃらに」や「高校野球のように」とは、そんなところにも見られるのだ。
岡田が大山を不動の4番に据える理由がよく分かる。さあ、一時も隙を見せられない戦いがいよいよ始まる。そこに不可欠な支柱が阪神にいることを、カープ戦で再認識させられた。=敬称略=
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