・111の悪夢から18年
【10月28日】
阪神の4番から電話があった。忘れもしない。05年の秋である。
「メシ、いこか」
日本シリーズでロッテに4連敗を喫したその一夜明け。金本知憲と西宮市内でテーブルを囲んだ。
何と声を掛けていいのか。取材者としては、これほど気まずいタイミングはなかった。が、今あの夜の会話を振り返れば、金本は全4試合を冷静に振り返っていたように思う。
あれから18年が経った。
1死一、二塁で4番に巡ればどうか。初回、中野拓夢がヒットで出塁したとき、ふと05年を思い起こした。結局、森下翔太の三振併殺でそうはならず、残念だったような、ホッとしたような…。
ほんのわずかでも歯車が狂えば大勢が変わる。それがシリーズの綾。そういう意味では、序盤二度の森下の打席で少し嫌な予感はした。四回は無死一、二塁から遊ゴロ併殺。4番の前で好機が潰えていた。
「第1戦の初回、金本さんをゲッツーに取れたことが全てだったような気がします」
05年の日本シリーズを回想した西岡剛からそんな話を聞いたことがある。
千葉マリンスタジアムでの第1戦、絶好の先制機は、最初に阪神に訪れた。
初回1死一、二塁である。
金本はセンターへ抜けようかというヒット性の打球を放ったが、これを二塁ベース寄りに守っていたロッテのショート西岡剛が好守を見せゲッツー。連続打席無併殺の日本記録保持者の出ばなをくじき、これが最後まで尾を引いた。
星野仙一が率いた03年のVチームよりも強力で洗練された第1次岡田政権だった。その中心を担いセ・リーグMVPに輝いた主砲がロッテ投手陣の前に沈黙した。
13打数1安打。2三振。打点は0。初安打が飛び出したのは第4戦…時既に遅しだった。シーズン40発男のシリーズ打率はまさかの・077。4番がこれほどまでに封じ込まれるとは、戦前誰も予想できなかった。戦犯。当時のメディアの中にはそんな辛辣な見出しを打つ媒体もあった。
チームの象徴だけに4番がクローズアップされるのは当然だったが、実は、岡田阪神自慢の5番打者も徹底的にやられたシリーズだった。シーズン147打点をひっさげ臨んだ今岡誠は4試合で14打数2安打、4三振、1打点。打率・143。ファンが期待を寄せた4、5番があわせて打率・111では勝機はなかった。
岡田彰布にとって日本シリーズの初勝利はどんな味だろうか。指揮官にとって初戦の殊勲はやはり村上頌樹か。それとも、山本由伸をKOした打線か。
僕は、あえて3つ四球を選んだ4番を思う。どんな形でもいい。とにかく初戦に得点に絡め-。そう願っていたら六回先頭の四球でホームへかえってきた。簡単に打たせてもらえるはずがない…だからこそ他の誰でもない。キーマンは4番。大山が追加点の起点になった夜。波にのる。=敬称略=
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