岡田彰布を日本一の監督に

 【11月4日】

 山本由伸がお立ち台で「中嶋監督を日本一の監督にしましょう」と言った。実は、オリックス時代の能見篤史からよく中嶋聡の話を聞いていた。「選手を信頼してくれる素晴らしい指導者」だと…。

 この人を男にしたい-。プロ野球界でその類の話はよく聞く。オリックスの選手、スタッフは中嶋という指揮官に相応の魅力を感じそんな思いを抱くのだろう。

 中嶋はメディアに対してぶっきらぼうな人だとよく聞く。僕はメディア側の人間だけど、そういうリーダーは大好きだ。記者の前で笑顔を振りまき、うまいことやっている人よりもずっと好感がもてる。選手ファーストなんだろうな…と、想像できるから。

 では、岡田彰布はどうか。

 ときに、メディアにとっては中嶋以上に怖い存在になるリーダーである。この夜、番記者の囲み会見で森下翔太が3三振した話を振られると、ぶ然として言った。

 「そんなん分かってるやん。いつものことやん。毎回言わすなよ。あした1試合で終わりやからええやないか」

 今更だが、公式会見でこんなふうに選手を突き放す指揮官は今はまずいない。が、選手を思うリーダーという意味では、岡田も中嶋と実は同じである。勝つまでそれは伝わりにくい人だから、日本一の監督にして選手たちに「岡田の心」が伝わればいいなと思う。

 「選手と恩師」

 その絆を考えるとき、日本シリーズ初スタメンに名を連ねた糸原健斗を思う。山本由伸とのマッチアップで虎将は迷わずDHに背番号33を指名した。四回、その糸原がベンチの期待に応え、この夜2本目の安打を二塁への内野安打でもぎとった。さらに木浪聖也の左前打で三進し好機が広がったが、後続が倒れ、得点には結びつかなかった。

 糸原の恩師から伝言を預かっていた。

 「このシリーズをずっと見ていますけど、健斗らしさが出ていると思いますよ。綺麗なヒットじゃなくていいから、ここぞの場面で打てよと伝えておいてください」

 島根・開星高校野球部監督の野々村直通である。日本シリーズ3試合連続安打…師のリクエスト通り綺麗なヒットじゃなくてもしぶとさでチームに貢献している。

 明大-エネオスを経てプロ入りした糸原だが、唯一無二の師として野々村に敬意を抱き、年に一度挨拶に故郷へ帰っている。

 縁あって僕も名将にお世話になっている一人だが、まだまだユニホーム姿で声を枯らす御大がいつも教え子たちにいうのは…

 「逃げるな。向かっていけ」

 技術を大切にする一方で「心」の重みも常に説いている。

 「岡田監督が健斗のことを褒めている記事を読みましたよ。何とか活躍して日本一になって帰ってきてもらいたい」

 野々村だけじゃない。選手それぞれの恩師も願うはずだ。岡田彰布を日本一の監督に…。頂上決戦の最終章。猛虎戦士たちが恩人への報恩を胸に戦う。=敬称略=

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