裸足の下村海翔を思う

 【11月8日】

 ドラフト1位指名の下村海翔が言っていたのはこれだ。「第62回西宮市立小学校連合体育大会」。「しょうれんたい(小連体)」の略称で親しまれる西宮の子どもたちの特権…とでもいおうか。

 毎年甲子園で開催される地元の合同運動会である。参加者は西宮41校の小学生約4700人。なかでも「裸足の組み体操」は緑の芝に生えてなかなか壮観である。

 「西宮市の連合体育大会での組み体操でしか立ったことがありません。夢の場所です」 

 先日、阪神の球団スカウト陣が青学大で指名挨拶へ出向いた際、下村は「甲子園の思い出」についてそんなふうに語っていた。

 西宮で暮らす者にとっては、ほほ笑ましいエピソードに思えるんだけど、ほとんどのファンは「ん?」となったはず。西宮の子は運動会で「聖地」の土を踏めるの?ってなものだろう。

 朝から球団関係者の取材で甲子園界隈を歩いた。宮っ子(西宮の子どもたちを地元ではそう呼びます)で賑わう球場周辺も、季節外れの陽気で、木々の色づきが心なしか例年より遅く感じる。

 スタンドで小連体を眺めながらドラ1右腕を思う。下村の実家は本人曰く「甲子園まで自転車で行ける距離」というから、ここは庭も同然。そこで気の早い僕は、NPBから来季セ・リーグの日程が発表されたこの日、対戦カードを見ながら、彼の凱旋登板はいつ…いや、さすがに気が早すぎるか。

 そんなことよりも、きっと、下村は足元を見つめているはずだ。来年、再来年…自身がプロ生活の基板をどんなふうに作っていくのか。一流への礎を築く場所は…

 そういえば、そうか。下村はプロ2年目から尼崎市の球団新施設で過ごすことになるのか。きのう当欄で紹介した小田南公園の新ボールパークで研鑽を積む彼の姿を想像するほうが先かもしれない。

 ところで、宮っ子の組み体操を眺めながら、ふと思った。誰がこの無数の足跡のグラウンドを整備するのか…。やはり、そうか。

 「そうそう、きょうは小連体。こっちは高知へ着いたよ」

 阪神園芸・甲子園施設部長の金澤健児である。連絡すると、安芸球場へ向かっているという。

 「秋季キャンプは7年ぶり」。久方ぶりの理由を金澤に聞けば、今月1日のキャンプインから安芸入りしていた部下職員と「交代しないといけないからね」。

 同職員は「造園施工管理技士」という国家資格試験(11月中旬)受験のため帰阪する。なぜ、その資格が要るかといえば、それこそ下村らの練習拠点となる新施設の工事現場の長は、この国家資格が無ければ務められないから…だそうだ。当然といえば、そうなんだろうけど、ファームグラウンドの「チーム神整備」も鳴尾浜から尼崎へ移るために、着々と準備を進めている。

 小連体の祭りの後も神整備で整った甲子園。かつて聖地の黒土を裸足で踏みしめた下村海翔が、真っ新なこのマウンドに立つ日が待ち遠しい暖秋である。=敬称略=

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