ヴィトンより欲しいもの

 【11月20日】

 秋のキャンプが終わったら記者さんもしばらく暇でしょ?

 よくそんなふうに聞かれる。

 暇でもないんですよ…これが。選手にとって一大イベントが待っていますから…。

 虎戦士の来季の「価値」をはかる契約更改交渉が、例年通り若い選手から順に始まっている。

 この日は、前川右京、井上広大らロマン砲の面々が臨み、ハンを押したようだ。黄色と黒の球団旗の前で会見する彼らを見るにつけしみじみ感じる。一年って、あっちゅう間だな…。

 あっ…でも、シーズン前の記憶ってやっぱり薄れているもので、例えば、今年2月の沖縄で井上がキャンプMVPに選ばれた…なんてすっかり忘れてしまっていた。

 井上といえば、キャンプ中のいわゆる実戦で打率・364、3本塁打、10打点を挙げ、岡田彰布が目を細めた高卒4年目である。

 あの頃は、岡田がもっぱら助っ人勢に辛口だっただけに、〈新戦力〉という意味でも「ひと皮むけたっていうか…」と、彼を称えていたのが印象的だった。が、蓋を開けてみれば、やはり1軍の壁は厚く、13試合の出場で打率・229。期待の一発も0に終わった。

 指揮官が宜野座で発していたコメントをよく覚えている。

 「ルーキーの森下が(1軍キャンプに)合流して、余計に(井上が)良くなったよな。右バッターで、年齢も近いし、いい刺激になっているんじゃないかなぁ」

 同じ右打ちの外野手であり、打撃のタイプ的にも少しかぶる。森下より1学年下だけど、プロ野球の世界では先輩だし、「夏の甲子園」の活躍では凌駕したプライドだってなくはないと想像する。

 若いカテゴリーとはいえ森下は侍ジャパンの国際大会で主力として優勝に貢献した。井上はあまり「ガツガツ」を言葉にするタイプではないと思うが、虎の将が言う「いい刺激」がもっと活性化すれば、外野手が「高いレベル」でしのぎを削ることになるし、また、そうならなければ、当欄もやすやすと「連覇」を語れない。

 そこで、前川右京である。

 同じくこの日、契約を更改し、「香水を買いたい」と言うところがかわいらしいんだけど、二軍監督の和田豊は彼を「野武士のような選手」と言うほどだから、会見の「ヴィトン」発言とは裏腹な野心を抱いていると僕は見ている。

 右京が「一番、もったいなかった」と振り返ったのが、体調不良で登録を抹消された8月のこと。先ごろ岡田が「ええ時にケガとか体調不良とかになるからな。1年フルで活躍するには自分の管理しかないから」と、前川にハッパをかけていたが、「前川?そら戦力なる」「元気やったら」と添えたところに愛情を感じる。

 確かに「体調不良」で抹消された右京だけど、痛めていた個所を時間をかけてケアできた〈功名〉もあったと聞く。来年この席で今夏の離脱など誰も思い出せないほど逞しくなっている右京を見たいし、もっとデカい、欲しいものも聞きたい。=敬称略=

関連ニュース

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(阪神タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス