足がすくんだ雨の神戸

 【11月22日】

 桧山進次郎の隣に矢野輝弘がいる。金本知憲の横に片岡篤史。そして、井川慶、福原忍、藤本敦士…。嗚呼はしゃいで赤星憲広を車上から落とそうとしているのは、金澤健人か…。みんな、笑顔だ。

 03年の11月3日である。歓喜に沸く神戸フラワーロードは25万人を超える観衆で埋め尽くされ、その割れんばかりの歓声にV戦士が破顔して応えていた。

 20年前のこの光景を僕は見ていない。いや、見たのだけど、豆粒だった…という書き方が正しい。

 ご存じ、あの年は星野阪神が18年ぶりのリーグ制覇を果たし、大阪御堂筋と神戸で盛大に優勝パレードが開催されたわけだが、まだ若かった僕は三宮国際会館の屋上でカメラを構えていた。もちろん社として撮影許可を得て特別に上らせてもらった。が、当時の紙面写真を見れば今でも足がすくむ。身を乗り出して撮影するのは、高所が不得手な僕にとっては「罰ゲーム」以外の何物でもなかった。

 しかも、当日は雨…。ビルの屋上は強風が舞い、手袋をしても、カメラを持つ手がかじかんだ。ブルブル震えながらパレードカーの列をファインダー越しに眺めた。

 だから、冒頭に書いた選手たちの表情は、翌朝のデイリースポーツを読んで知った。星野さんも、岡田さんも、ファンに手を振ってほんまに幸せそうやってんな…。

 さて本日、あの神戸パレードが「再現」される。監督は1号車か…。おぉ、近本光司も大山悠輔も中野拓夢も1号車じゃないか。平田勝男と同じ2号車には、え~っと、岩崎優、伊藤将司、森下翔太がいるのか…。球団公式サイトが選手が乗る車まで教えてくれる。

 前回優勝の05年は大阪御堂筋のみのパレードだったので、デイリーのホーム神戸での開催は20年ぶり。時間差でオリックスのパレードも行われる為、Vパレード実行委員会事務局の兵庫県は、会場となる三宮と元町の一帯で午前6時半から午後7時半まで交通規制を実施すると発表した。

 思えば、あの03年の雨のパレードは、星野監督にとっては最後の阪神のユニホーム姿だった。

 「私もきょうが最後のタテジマ姿でございます。しっかりと見納めてください」。マイクで観衆にそう語りかけ、口角を上げっぱなしだった闘将は、あの日、どんな感慨だったのか。「(やめる)オレがまたユニホームで出ていったら違和感がある」。パレードから2週間ほど後のファン感謝デーではもう縦じまを着ない…あらかじめそう決めていたというが、それは次期監督の岡田彰布と選手への気遣いでもあったと後に聞いた。

 さて今回は、引き続き監督を担う岡田彰布はもちろん、ファン感謝デーや地元西宮市民への優勝報告会にも参加する。そこで僕が楽しみにしているのは、大観衆の前で岡田が「連覇」をいつ、どう表現するのか…。我々は堂々と「連覇」と口にしていいのだろうか。

 きょうの優勝パレードは僕はビルに上らない。じっくりと、虎将の口角と言葉を記憶に刻みたい。=敬称略=

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