「もしも」が不要の実力
【11月28日】
ドラえもんの作者「藤子・F・不二雄」が、あさって、12月1日をもって生誕90年を迎える。ファンのお祝いムードをあちこちで見かけるし、メモリアルグッズの販売もSNSで盛り上がっている。
小学生の頃、月に一冊、ドラえもんの単行本を親にねだっていたけれど、昔から、ひみつ道具で一番ほしい物は?と聞かれれば、いつも「もしもボックス」と答えていた。だって、この道具ほど万能なものはないと思っていたから。
いま、この道具があればどんな「もしも」を叶えてもらおうか。なんて、おとぎ話はさておき、今年のプロ野球界で、ドラえもんでも叶えられない「ほしいもの」を手に入れた選手をお祝いしたい。
やったぜ!村上頌樹。
プロ3年目にして至高の栄冠、セ・リーグMVP、そして、新人王である。
振り返れば、今春、遅ればせながら鳴尾浜で初めて彼に挨拶させてもらった。村上の中学時代の恩師、元阪神外野手の庄田隆弘には個人的にお世話になっている。その関係で庄田に「10代の村上」の逸話をよく聞かせてもらった。そんなことを本人に伝えると、「今後とも、よろしくお願いします」と屈託のない笑みで返してくれたのだけど、あのときは、まさか…といえば失礼だけど、半年後に彼がレッドカーペットで最高殊勲の壇上に立っているとは、とても想像できるものではなかった。
村上をファーム時代から見てきた投手コーチ安藤優也に、野暮な質問をぶつけてみた。シーズンの最終盤だったと思う。
もしも、村上があの試合で登板機会がなかったら?
今の村上はあったか?
「それは間違いなく『あった』と思いますよ。あの試合で投げていなかったとしても、必ず、今シーズンのどこかで出てきていたでしょうし、今と同じような結果を残していたと思います」
安藤の歯切れは良かった。
「あの試合」とは、村上の今季初登板となった開幕第2戦のDeNA戦。秋山-村上-岩崎-浜地-湯浅-石井-加治屋-富田と8投手の継投で、最後は近本光司のサヨナラ打で連勝を決めたゲームだ。「あの試合」は、左肩の違和感で出遅れた伊藤将司の代役で先発した秋山拓巳が5回5失点。2番手で登板した村上が1回を無失点に抑え、次回登板へ繋げた。
その「次回」があの巨人戦の7回パーフェクトである。もしも秋山が絶好調だったら…。もしも伊藤将が開幕から万全だったら…。いや、安藤はそんな「もしも」が無くとも村上の台頭は必然だった…そう確信していた。
しかし、これほどMVPの候補者が拮抗した年も稀少だ。思えば05年は金本知憲がダントツ。03年は井川が矢野に競り勝った。今年は…いや、過去はもういい。秋山も再起を期すし、伊藤将も開幕から全開でくる。ライバルひしめく至高のステージで「また、来年獲れるように頑張ります」と、MVP「連覇」を誓った村上が誇らしい。=敬称略=
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