教科書には間違いが多い
【12月4日】
佐藤輝明がいい顔をしていた。「後援会」主催の野球教室に参加し、自身が育った西宮で子どもたちと戯れる輝は幸せそうだった。手土産が日本一となればこれ以上ない恩返しになるわけだ。
大山悠輔もいい顔だった。地元茨城の下妻市で観光大使に就任し同市の子どもたちに連覇を誓ったようだけど、これもまた、日本一の4番になって初めて味わえる至福の時間である。シーズン中はなかなか目に見えないが、バックアップしてくれる故郷の歓声、恩人の声援が心に届いたはずだし、地元にとっても阪神の背番号3はこれ以上ない誇りだと思う。
先月、近本光司らが参加した西宮での優勝報告会は、西宮で暮らす僕にとっても誇らしかった。38年ぶりの栄冠は、後押しする周囲の心を豊かにする。優勝ってこんなにいいものだっけ…何度も思い返すオフシーズンである。
バックアップ、恩返しといえば岡田彰布にとってはどうか。
岡田ともなれば、思い入れは、一人や二人じゃないはずだけど、後援会と聞いてピンとくるインパクトの最上位は、京都大の本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授。ノーベル賞学者である。
京都の後援会「メンバーズ80・岡田会」の会長を20年ほど務め、岡田と親交が深い世界的博士は、デイリースポーツにも登場いただいたことがある大の虎党。さぞかし、このたびの日本一を喜んでいることだろう。
本庶教授といえば、18年。ノーベル生理学・医学賞を受賞した際のインタビューが忘れられない。
「だいたい、世の中というのは嘘が多いですから。教科書に書いてあることも、実は間違っていることは沢さんある。それを正して更に前へ進んでいくということだから、基本はやはり、人が言っていること、教科書に書いてあることをすべて信じないこと。信じたらそこで進歩がないということだから。なぜか?と疑っていくことが重要だと思います」
この発言はNHKの報道番組でのものだったと記憶する。
教科書には間違いが多い-。元来、NHKはこの種のコメントを流したくない。表現の自由はさておき、局の立場上(性質上)、日本全国へ流しにくいに違いない。が、司会者が横やりを入れなかったのは、ノーベル賞受賞学者の発言だったから-。何を言うかではなく、誰が言うか。人を動かすのは意見の正しさではなく信頼性。ぶっちゃけ、これは皆さん感じるところだと思う。そういう意味で本庶教授の言葉は「重い」のだ。
野球にも「教科書」はある。試合中「セオリーでは…」とよく解説者が言う。今季、虎将は幾度か「え?」と思わせる采配、用兵で我々を驚かせたけれど、結果を見ていつも唸らされた。日本一になった今、岡田彰布が何を言うか、世間はなお注目する。
本庶-岡田。「教科書を疑う」一流が惹かれ合う関係は、もはや「後援」の域を超えるもの。相好を崩した勝者の再会が楽しみだ。=敬称略=
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