順調であることを疑う

 【1月6日】 

 大阪野田の阪神電鉄本社で年頭挨拶に立ったのは、代表取締役社長の久須勇介である。さて、何を語ったのか。久須は電鉄社員へ向け「阪神・淡路大震災30年」への想いを綴った。

 三宮の本社ビルが壊滅的なダメージを被った95年春にデイリースポーツに入社した僕にとっても追悼の心を新たにする年の幕開け。球団も本社も降雨の仕事始めになった阪神とともに25年の第一歩を記したい。

 あけましておめでとう。めでたい日に心塞がる話は抜き。メディアが集う組織ならなおさらネガ要素はナシ。景気のよろしいお話を…。タイガースの年賀式では一堂に会した職員の前で、社長の粟井一夫、監督の藤川球児が揃ってV奪回の大号令。みなさまの御健勝を祈って乾杯!いや、それが…。

 「日々順調であることを疑って、不安であることを正解と思えるような、そんな組織が最後一番上にいけるんじゃないかと思っています」

 この球児の言葉が刺さった。

 「本質を語るリーダー」であると昨秋から度々書いてきたけれど、44歳の指揮官から今年もまた教わる。

 強い阪神においては新監督が就けばメディアの論調は華やぐもの。一昨年日本一になった今がその阪神であり、連覇を逸してもリーダーが代わったことで、まるでV奪回がすぐそこにあるような楽観が浮かびがち。が、球児はもちろんそうは思っていない…。

 前回(昨年末)の続きを書きたい。

 読売巨人軍で全権を担い独裁とも揶揄された渡辺恒雄は、しかし、本質を外さないオーナーだった。組織運営において本質を外さないトップ。阪神にそんなオーナーが立てばどうなるか。

 昨年末、阪神電鉄本社で行われたオーナー交代会見を取材し、新オーナー秦雅夫の所信表明を拝聴した。

 「阪神愛に溢れる藤川監督を迎えた今のチームは、リーグの覇権を奪還する力を持っていると確信しています」

 力のこもった発信だが、聞き違えないようにする。秦の言葉を全て起こした取材ノートを捲れば、ざっと6000文字。「優勝する力を持っている」とは繰り返し語っているが、「優勝できる」という表現は一言もない。

 「チーム力は十分上がって優勝争いができると思いますけれども、必ず優勝できるかというと、そういうことでもない。そういう意味では、就任した以上は、プレッシャーを感じながらやっていくというふうに感じています」

 そう語っていた。本社筋を取材すれば、球児は「よくこのタイミングで監督を引き受けてくれた」との論調も少なくない。この春の優勝予想で球児虎に◎をつける評論家も多いと思うが、阪神の深部に浮かれるそぶりは無い。

 「チームとの距離感は、(球団)社長をある程度挟んだ適度な距離感がいいと私自身は思っています」

 秦はそう語る。現場、フロントの編成方針を信じ、任せる。穏健?いや、本社を取材する限り一様に「秦さんは厳しい方(かた)」。「本質」を突くトップが本丸と前線に居る虎、その御健勝に乾杯。続きはまた。=敬称略=

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