中田翔に教わる人生訓
【2月13日】
中田翔に会ってきた。沖縄中部の長閑な野球場で汗を流していると聞いてお邪魔したのは、ひと月前のことだ。中田を慕う後輩たちと自主トレに励むその姿はピリッとしていた。
「どうも、どうも…。ご無沙汰しています。ひとりで来たんですか?」
なぜ、年明けに中田を訪ねたかといえば、新聞に掲載された彼のコメントを読んだから。
「今年ラストになるかも…」
そんなこと言うから、おいおい!と思って…。そう伝えると、中田は笑いながら、それでも真顔で言った。
「でも、そういう世界ですからね」
縁あって、彼がプロ入りした18歳のときに食事を共にした。あの夜、テーブルを囲みながら、少年時代「亀を飼っていた」話をしてくれたり…。
大阪桐蔭時代に甲子園で「怪物」と呼ばれたスラッガーがもうプロ18年目を迎える。そりゃ僕もトシを取るはずだけど、中田翔の礼儀は昔から何も変わっていない。しかし、みんながみんな、その人柄を多面的に見てくれるわけではないので誤解もされる。
この日、僕は具志川キャンプ経由で中日キャンプ地の北谷へ行った。中田は底冷えする天候の中、オフに15キロ絞った体でバットを振っていた。
なぜ、このタイミングで中田の話を書くのか。それは、今クール、阪神の将・藤川球児が亡き野村克也を神妙に偲んでいたからである。
命日の2月11日、球児は恩人の言葉を回想しながら、「『野球人である前に社会人であれ』というところ…。そこを一番強く自分の中で取り入れながら。その思いは私が野村克也さんからいただいた人生訓なので」と語った。
僕は中田と話せば、いつも「野球人である前に…」を感じるのだ。
野村克也と中田翔…縁がなさそうな両人だが、そうじゃない。ノムさんが他界した5年前のこと。中田がまだ日本ハムに在籍した当時、沖縄・名護のキャンプ地に彼を訪ねると、訃報を耳にして「さみしい」と漏らしていた。
「お前は必ずいい選手になる」
ノムさんから掛けられた言葉を中田は今も忘れていない。ときに「その茶髪、やめろ」とも叱られたそうだが、僕の知る限り、野村克也という名将は「野球人である前に…」を理解できない選手を相手にしない。やんちゃだけど「社会人であろう」とし、礼儀を欠かさない中田を認めていた。
良い雰囲気で練習しているね?ピリッとした空気を感じる。中田にそう伝えると、「やるときはやるっていう感じでやってますよ。集中してできているのでいいかな…」と話した。
彼に完全復活されれば、阪神としては困る。けれど、野球界を盛り上げるためにも今季を「ラスト」にしないでもらいたい思いは募る。
「野球人である前に…」を人生訓にする藤川球児に触れて3カ月余り。今キャンプはずっと選手取材をしているのでタイミング的に監督会見に出られていない。「記者である前に」を省察するためにも、そろそろ球児語録を補給したくなってきた。=敬称略=
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