闘将が欲しがった強心臓
【4月1日】
旧知の医師とランチした。勤務地が大阪市浪速区の総合病院だから西区の京セラドームからそれほど遠くない。
ともに鰤の照り焼き定食を…いや、食ったものを書きたいわけじゃない。
唐突に「ちょっと腕を」と言われたので、え?なんで?と思いながら差し出すと、脈を測られた。
おいおい…。俺、何かやばい?
「馬力があるよ。一回の排出量が多いアスリート心臓」
ほんまに??サッカーをやっていた昔はともかく、最近はもう体力低下が著しい。にわかに信じ難いのだけど、その医師は「リズムが一定で安定しているし、この歳でこれは強い」と…。
いままで「血圧」で引っかかったことはない。でも、馬力がある心臓なんて初めて言われた。この心臓を活かせる道でも探ろうか。なんて、おっさんの健康診断はどうだっていい。
阪神で一番の「強心臓」といえば?
地元開幕戦でそんな取材をしてみると、才木浩人の名前が挙がった。
16年ドラフトで才木の3位指名に携わった球団の関係者によれば「彼はここが強いです」と左胸を指し、「入ってきた頃からずっと、いい意味でのビッグマウスでしたから」とも…。
才木の世代は早くからオリックス山本由伸が頭一つ抜け出た感があったが、それでも才木の言葉にはいつも負けん気の矜持が滲み出ていたという。いつかは「才木世代に」。はっきりとは言わなかったが、そんな気概である。
週アタマ火曜の重責を任された才木が粘り切れなかった夜だ。95球。六回途中の降板は本人にとって不本意でしかないだろう。先制点を奪った直後に牧秀悟に食らった同点弾も悔しい。目が潤んでいるようにも見えた。
「才木」「京セラ」で思い出すのは大谷翔平に片膝弾を浴びて「マジ悔しい…」とうなだれた一昨年のあれだ。キャンプ前、才木にじっくり話を聞く機会に恵まれたので、あのときのホンネを聞いてみると、個人的に刺さる言葉が返ってきた。
「すごく悔しい思いをしたのは事実ですけど、かと言って、あれがあったから向上心が芽生えたかと言われると…。元から(自分自身に)向上心がないわけではないと思っているので…」
聞いていて気持ち良かった。
今春はドジャースとのプレシーズンマッチで大谷にやり返した。世界一軍団相手に物怖じしない「強心臓」は大したものだし、京セラの雪辱と呼べば物語りは映えるが、本人の胸にそんな顕示欲はないような気もする。
思い返せば、9年前のドラフトで当時楽天のシニアアドバイザーだった星野仙一が悔しがっていた。
「阪神に3位でいかれたか。うちも欲しかったんや。あの子はええぞ」
闘将は山本由伸(オリックス4位)ではなく才木の名を出してドラフトの円卓で唇を噛んでいたという。潜在性はもとより闘将好みのハート…。そんな情報も掴んでいたかどうか。
京セラの背信を糧に?いや、才木はこの夜の悔しさがなければ向上しないような男ではない。=敬称略=
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