レフトから研究する心
【4月8日】
前川右京に聞いてみた。レフトから相手の左打者のバッティングフォームを見ることがあるかどうか。とくに自身と同じようなタイプのスラッガーがどんなふうに打っているのか…。
「バッティングフォームですか?」
そう。
「いえ…」
右京は首を横に振った。
「どういう打球がどの方向へ飛んでくるか考えてます」
間違いない…。
当然、守りの意識だもんね…。
「そうですね」
そこで質問の意図、種を明かすと、右京は驚いたようにはにかんだ。
さて、レジェンドOBが集結した甲子園開幕戦は華やいだ。試合前のセレモニーではレジェンドたちと現役のスタメン選手がそれぞれのポジションに就き、レフトでは金本知憲と前川右京が握手を交わした。時間にして1分もなかったけれど、マンモススタンドから大歓声が注がれる中、57歳と21歳は身ぶり手ぶりで何やら話していた。
金本「変化球は打てるようになっているから、あとはまっすぐだな。まっすぐに強くなれよ」
前川「頑張ります」
振り返れば、両者の出逢いは前川が智辯学園3年を迎える春まで遡る。MBS(毎日放送)の企画で金本が同校を訪問し、前川に一言アドバイスを送ったところ、直後のロングティーで飛距離が驚くほど伸びた。そんな良縁で金本は前川を気に掛けるようになり、前川もレジェンドの背中を追った。
「まっすぐに強い、イコール、いいバッターの最低条件」
背番号6からそんな教示をもらって試合に臨んだ前川は、第1打席で高橋奎二のまっすぐを見逃し三振を喫したが、2打席目はやや浮いたスライダーをライトへ運んだ。七回のチャンスでは際どい変化球を見極め四球…。
ここで話を冒頭に戻してみる。
金本は現役時代、守備に就くと、レフトのポジションから各チームの左打者を観察していた。
構え、スタンス、肩の開き、タイミングの取り方…。
「角度的にレフトから左バッターのフォームはよく見えるんよ」
かつて通算2000安打を目前にした取材で金本はそう語っていた。
結果が悪い時よりもむしろ良い時に試合後「素振り」を徹底し、試合中は「レフトから目」を研究に費やした。
思えば、前川は入団会見で「いつか6番をつけたいです」と語っていた。当時監督の矢野燿大から「言っとけ」と煽られたかっこうだけど、今でも6番欲しい?そう聞けば、前川は言う。
「いえ…。僕なんかが欲しいと言ってはいけない番号でした」
2539安打、476本塁打、1521打点。金本の打撃三部門の記録はいずれも燦然と輝く阪神歴代1位の数字である。それでもいつかは…前川右京にはもう一度「6番をほしい」と言ってもらいたい。金本はそんな期待を込めて言う。いい投手のまっすぐを打ち返せ-。=敬称略=
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